攻守交代-GameSet-【弱虫ペダル/荒北靖友】

43回戦 ページ3

ー新開sideー



　クラスの女の子たちが嬉しそうにスカートやウィッグを次から次に持って来ては着せ替え人形のように俺で遊んでいる。まぁ楽しそうだから良いんだけど。

「新開くん、今度はこのワンピース着てみてー」
「オッケー」

　まんざらでもない自分はそういう血筋なのかと弟の顔が浮かんで苦笑いを浮かべた。

「んなガタイの良いオンナいねーヨ？！」

　ついさっきまでどこかに逃げていた靖友。
　教室に戻ってすぐはすこぶる機嫌が悪くて女の子たちが近寄りもしなかったけど、少し時間が経ったせいか気付けばいつもの靖友に戻っていた。

「そうか？さっきの服よりこっちの方が体のライン隠せて良い感じだと思うんだけど」
「バァカ。何着たって所詮オトコはオトコだヨ」

　高校最後の文化祭のクラスの出し物が女装カフェって……幸か不幸か。男子からすると不幸かも。毎年、大してやる気のない靖友は例年以上にやる気は皆無のようで、女の子がフリフリのスカートを手に近付いてくると、あからさまに顔を歪めた。

「マジでオレは着ねェってェ！」
「えー。でも男子はホール担当って決めたじゃーん！新開くん、荒北になんとか言ってよー」

　文化祭のクラスリーダーの女の子が困り顔で助けを求めてきた。

「靖友も着てみたら？着たら案外ハマるかも」
「んや、100％ハマんねーから大丈夫」

　仕方ない。後で寿一のクラスに行って、寿一から靖友に言ってもらおう。きっと、寿一の言うことなら聞く耳を持ってくれるだろう。
　靖友のことは俺に任せて、とクラスリーダーに小声で伝えると、笑顔で頷いた。こりゃぁ、是が非でも靖友の首を縦に振らせねぇとなぁ。

「……なァ、新開」
「ん？」
「あのさァ……Aっ……じゃなくて、黒田のクラス、何するか知ってるゥ？」

　確か、黒田のクラスは……って、え？ その前。今、なんて言った？
――Aって……あのAちゃん？

「いつの間にAちゃんにブチかまされたんだ？！」
「ハァ？！」

　大袈裟に机を叩き、立ち上がった靖友に教室内の視線は集まった。

「バッ！？ちげーヨ？！」

　動揺した靖友なんて珍しくて。みんなが何事かと騒ぐ中――

「荒北先輩ー！」

　シンとした室内に響く女の子の声。靖友から声の主――Aちゃんへと視線を移すも誰も声が出ない。

「あのバカッ！」

　舌打ちを残して靖友がAちゃんと教室を出た直後、その日の文化祭準備が中止になるほどクラスは騒がしくなった。

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