51回戦 ページ11
ー荒北sideー
可笑しな格好で浴衣姿の2人を追ったのは反射的。
鼻を掠めたんだヨ。イヤな予感のニオイが。
その嗅覚は正しかったのか……
大きな物音の後、しばらくの沈黙に胸騒ぎがして、可笑しな格好のまま黒田の部屋を開けると間一髪。
Aと黒田の距離は僅かだった。
「誰だよ?!」
顔を上げた黒田がAから、Aの唇から遠ざかった。
「オレェ」
「荒北先輩?!なんですか?!そのキュートなお洋服!そういう趣味があったなら、もっと早く教えてくれたら良かったのに!」
「バァカ。んなわけねェだろ」
ついさっきまでのAの表情は消えた。
オレには見せたことない――慈愛のこもった眼差し。柔らかい微笑みを向けていた黒田に芽生えた感情は必然的に己の気持ちに気付かないふりなんか出来ないほど浸透していく。
棘のある黒田の視線と可笑しな下心を抱いてるAの視線に狭い部屋の空気が雑然とした。
「A、杵だけ持って先に教室戻って手の空いてるやつ呼んできて」
床に落ちていた杵を2つ。手に取ったAに
「1本貸せ」
と、手を出すと
「ありがと」
黒田の何か言いたげな眼は見ない振りをした。ここに留まれば黒田との亀裂を作ってしまいそうで――怖かったのかもしんねェ。
Aはいつものように笑ってんのに、部屋を出る直前に振り返り黒田を見て今度は慈悲深い瞳を揺らしたりなんかしやがったから――苛立ちが宛もなく廻るようだった。
教室から見下ろしたときより、Aの襟足が少しだけ乱れた気がした。
つーか、3階から襟足なんて見えなかったはずなのに、黒田のベッドに身体を沈めていたAが目に焼き付いていて。可笑しな格好が可笑しな幻覚さえ写し出してる。
「コレ、ドコ持ってくんだヨ?」
寮を出て、顔を伏せたまま歩くAに問うが、答えが返ってこない。
――んな考え込んだツラしてんじゃねェヨ
「オイ!」
「えっ?!はい?!」
肩を掴み、大声で呼び掛けるとようやくハッとしたような顔を上げた。
「コレどこに……」
「Aちゃん!」
言葉を遮ったのは、いつか学食で黒田の隣に座っていたサッカー部のヤツだった。
「遅かったね。黒田は?」
「臼が重くて運べずに居るの。加藤くん、行ってあげて」
「あぁ。その前にソレ、運ぶよ」
“加藤クン”はオレの姿にギョッとしたものの、深々と礼を言って2本の杵を担ぎ、Aと一緒に消えて行った。
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eye(プロフ) - 色々色の助さん» 最後までお付き合い頂き、ありがとうございます!!勿体ないお言葉ありがとうございます。慣れない書き方に苦戦しましたが、そう受け取って頂けて嬉しいです(^^)これからも色んなお話に挑戦していきたいと思ってます!応援よろしくお願い致します! (2016年2月11日 0時) (レス) id: ec48e3633d (このIDを非表示/違反報告)
eye(プロフ) - ミリアさん» 最後までお付き合い頂き、ありがとうございます!!中途半端な三つ巴になってしまいましたが、お楽しみ頂けましたか?こちらこそ、いつも応援ありがとうございます(^^)今後もゆっくりですが、色んなお話に挑戦しようと思いますので応援よろしくお願い致します! (2016年2月11日 0時) (レス) id: ec48e3633d (このIDを非表示/違反報告)
eye(プロフ) - 桜さん» コメントありがとうございます。攻められる荒北さん、お楽しみ頂けたようで嬉しいです。他作品のご愛読感謝致します!これからも応援よろしくお願い致します(^^)最後までお付き合い頂き、ありがとうございました!! (2016年2月11日 0時) (レス) id: ec48e3633d (このIDを非表示/違反報告)
色々色の助(プロフ) - 完結お疲れ様でした。ここでは字下げや文を意識したような作品はなかなか見受けられませんがこれは物語としての表現などとても纏まり良く大好きでした!!受け身の荒北も楽しかったです。eyeさんの物語の着眼点にはいつも驚かされますwこれからも応援してます(*^^)v (2016年2月10日 22時) (レス) id: 505784ee23 (このIDを非表示/違反報告)
ミリア(プロフ) - 完結お疲れさまでした(*^^*)攻める夢主vs攻められたくない荒北に攻める黒田が加わって面白かったですwwいつも楽しいお話をありがとうございます!これからもeyeさんの作品楽しみにしてます。 (2016年2月10日 22時) (レス) id: 152cfe1d9d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:eye | 作成日時:2016年1月26日 21時