野獣荒北、人魚の海に溺れる-2-【弱虫ペダル/荒北靖友】

水深55m ページ7

ユラユラ泳ぐ人魚は

海の底に沈んでいくオレを見つける。



また…この夢か…。



どんどん人魚との距離が離れていく。



ハァ？！



助けに来てくんねーのォ？！



この前の夢ではいつも通り

助けてくれたじゃナァイ？！



ちょっ！オイ！

オレ…このまま…

溺れ………





「なんだヨ？！今日の夢！」



真夜中の部屋にオレの声が響く。



息は上がって、Tシャツは汗だく。



水面をユラユラ泳いでいた人魚が

沈んでいくオレを見下ろしていた。



大きなつり目の瞳は悲しそうに

水中を眺めていた。



アレ…？！

人魚の悲しそうな大きなつり目は思い出せるのに

なんで顔が思い出せねーんだ…。



クッソー…。



どーなってやがる…。



夢に苛立ってもしゃーねェことは

分かっているが、

あまりにもいつもと違う夢の人魚の様子に

軽くパニックだ。



夢の人魚はAだったんじゃねーかと

勝手に思ったこともあるが

そんな都合の良いことなんてありえねー。



たぶん、水中を泳ぐAの姿が目に焼き付いて

夢の人魚のイメージがAになってるだけで。



今年の水泳の授業は

毎回プールサイドで座っているAしか

見れなかった。



去年の夏、

自在に水の中を泳ぐAがまだ頭から離れねー。



凄く速くて…

とても綺麗で…

スピードの先のゴールに突き進むAに会いてー…。



ア。



だからか。



オレの人魚のイメージがAだから…

水を失った今、

海の底へ沈んでいくオレを助けなかったのか？



「ここままじゃ、オレ…

マジでアイツに溺れそーだ…。」

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