水深88m ページ40
ーAsideー
中学に上がってから2年目の夏休みまでは
競泳にどっぷりハマっていたせいで
家族で訪れるはずのおばあちゃんの家への
お盆の帰省は私抜きで行ってもらっていた。
中学3年生の夏は水に入ることさえできなくて
この海の近くのおばあちゃんの家へ来るのを拒んだ。
それから3年。
やっとここに戻ってきた。
「競泳始めてからは、海に潜ることなんて
ほとんど無かったから…
12年ぶりか。」
目の前の懐かしい景色を眺める。
エメラルドブルーの海。
少し沖の方には島があって。
そこの洞窟まで泳いで行ってたなー。
シーズンを過ぎた海には私しか居ない。
足だけ水につけてみると流石に冷たい。
それでも…
泳がずにはいられない。
ポケットから耳栓を取り出し
水着の上から着ていたジャージを投げ捨て海へ入った。
一瞬、息が止まりそうな冷たさに
思わず足が止まったけど、
身体はすぐに海の温度に溶けていく。
ユラユラとあてもなく水中をさ迷う。
ここから私の水の全てが始まった。
あの頃はただ、水に浸かれるだけで楽しくて
一日中、泳いでた。
一度は水に入ることさえできなくて
自分の居場所がなくなったって絶望したこともある。
それでも、またここに戻って来れた。
ここを泳いでた頃より
もっと速くて、心の底から水を感じられる私になって。
それは間違いなく靖友のおかげなんだけど。
透明度の高い海は
4、5m先なんて余裕で見える。
幼いながら、海の中で生まれ、
海の中で生きて、
海の中で死んでいく魚たちを見ながら
羨ましいなんて思ってたんだ。
あれ…？
なんだっけ…。
海の中へ溶けていくように海底へ沈んでいく…
とても気持ち良さそうに沈む“なにか”の…
そんな姿を見て、羨ましいと思った私が居た。
今日まで忘れてた遠い曖昧な記憶。
夕陽に染まる水面に向かって泳ぐ。
顔を上げると、
先程まで立っていた砂浜はだいぶ遠くに見える。
「え…？誰？」
夕陽に照らされた砂浜に人影が見える。
顔まで見えないけど…
あのシルエットは…自転車に跨がってる？
その自転車は夏の青空の下に広がる海と同じ色。
靖友…？
なんでここにいるの？
再び水中に潜り、砂浜の方へ向かう。
この夏のスピードの先のゴールには
いつも靖友が居た。
だから、迷わず辿り着けるよ。
靖友の元へ。
私が誰よりも速く手を伸ばすんだ。
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eye(プロフ) - Ａｋｋｉｙさん» コメントありがとうございます。私と遠すぎる初恋を思い返しながら書きました(笑)結構前に書いたものなので特に読みにくいものなんですが、お楽しみ頂けたようで嬉しく思います(^^) (2016年5月20日 16時) (
レス) id: ec48e3633d (このIDを非表示/違反報告)
Ａｋｋｉｙ(プロフ) - 一気に読みました。遠い初恋を思い出しました(笑) 爽やかなお話しに、このくすみきった心が洗われ清々しい気持ちです＼(^-^)／ (2016年5月20日 1時) (レス) id: ccff988e52 (このIDを非表示/違反報告)
篠山りぃな(篠崎りぃな)(プロフ) - eyeさん» はい！ふぁいとです！ (2015年10月17日 6時) (レス) id: c4fd259c0d (このIDを非表示/違反報告)
eye(プロフ) - 篠山りぃな(篠崎りぃな)さん» 応援ありがとうございます(^^)楽しみにして下さる方がいるっていうのは書く意欲が高まります！ (2015年10月16日 21時) (レス) id: cbecc21577 (このIDを非表示/違反報告)
篠山りぃな(篠崎りぃな)(プロフ) - eyeさん» いえいえ！こちらこそありがとうございました！隣人シリーズのペースが上がるとは！とっても嬉しいです！頑張ってください！ (2015年10月16日 20時) (レス) id: c4fd259c0d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：eye | 作成日時：2015年9月29日 19時
