野獣荒北、人魚の海に溺れる-2-【弱虫ペダル/荒北靖友】

水深78m ページ30

ーAsideー



凄かったとか、

格好良かったとか、

そんな在り来たりな言葉では

表現できない感情を伝えられず

1日目のレース終わりの靖友に

声を掛けずに帰った。



靖友が背中を押したエースは

スピードの先のゴールへ一番に到達した。

3校同着1位だったとはいえ

1位は1位だ。

チームのためにアシストに徹し

誰よりもスピードの先のゴールへ

チームを届けようと

前の敵をカッ喰らう勢いで

前だけを向いて突き進む靖友が

“野獣”と呼ばれる様を見た。



アン「もうスタートした頃だね。

昨日の新開、凄かったんだよ！

京都の選手にスプリントリザルト獲られちゃったんだけど、

そのあと福富をゴールまで…」



アンから聞いた昨日の白熱したレース。



アン「今日が最後だね。

インハイ…。」



「うん。

今日、一番にゴールした選手のチームが

総合優勝…。」



靖友が注いできた3年分の思いが

この先のゴールへ届くよう

願わずにはいられない。



アン「でもさ、Aも見る場所ここで良かったの？」



アンに連れられてきたのは

3日目のスプリントリザルトライン付近。



どうやらここがアン曰く“新開ポジション”らしい。



「別に良いよ。

山に入ればエースと東堂と1年生が出るんでしょ？」



アン「え？元ヤン見にきたんだよね？！」



「そうだよ。」



アン「“元ヤンポジション”聞いてないのに大丈夫？」



「大丈夫！」



アン「なんでそんな自信あるのよ？！」



「んー…カン？」



アン「野生のカンならぬ、人魚のカンかよ！」



「なにそれー？」



なんとなく。

ここが“靖友ポジション”な気がした。

ここが…

靖友がスピードの先のゴールへ

一番で駆け抜ける場所な気がしたんだ。

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