【コクロウサマ】と雨。 ページ35
『なんだ、泣いてるのか?』
「雨が目に入ったんだよ。気にすんな。」
強がっている割には目元をよく擦る。
あまりこのことについては、これ以上触れないでおこう。
『でも、目をこするとバイ菌が目に入ったり腫れたりするからこすらないの。』
服の裾で軽く拭ってやると、手をおもむろに掴まれた。
意味がわからずに呆けているとAgotiはくしゃり、と笑って「お前もびしょ濡れじゃねぇか。」と言った。
『で、これからどうする?』
「そうだな、俺の養父……Solazarを探す。ケータイもあそこに長居しすぎたせいで使いもんにならねぇ。」
ため息をついてケータイ……というものをポケットにしまった。
探すといってもどこを?
「安心しろ。これでも俺はちょっと名の知れてる歌手でな。Solのことだ。行方不明届の一つでも出してくれてるだろ。」
そうやって今度はAgotiが私の手を引く。
雨だというのに、Agotiの手はやけに暖かかった。
近くのビルに駆け込むないなや、ずぶ濡れの歌手と私を受付の人が見つけてタオルを貸してくれた。
髪や体を軽く拭いて、暖房のついた部屋でAgotiの迎えを待つ。
ここは会社らしい。会社の電話機を借りてAgotiは養父へと電話をしていた。
『……で?どうだって?』
「今すぐ向かうだとよ。」
そりゃ良かった。
冷えた体を暖房が温めてくれる感覚が心地よく、ぼうっとしていた時、ふと、Agotiはこんな疑問を投げつけてきた。
「そういや、お前の名前を聞いてなかったな。」
『ずっと嬢ちゃんだったな。私はA•ランディール。』
「Aはあのラップの上手いチビと一緒に居たが、お前はラップが出来るのか?」
私のはラップというラップではない。
どちらかと言ったら歌である。
『ラップ……とは言い難い。私のは歌だから。』
それだけ、と思えば歌えと言わんばかりに見つめてくるAgoti。
最初こそは知らんふりをしていたが、段々無視できない程にAgotiの目が輝き始める。
『歌わなきゃダメ?』
「ダメだ。」
『……はぁ、アカペラでも構わない?』
「勿論。」
歌を人様へ披露するのはいつぶりだろうか。
確か、彼氏さんと彼女ちゃんが山へ迷い込んだぶりか?
いや、明確にはVictorの脳内害虫始末の時以来だったか?
どちらでもいいが、今回ばかりは流石の私も緊張している。
聞かす相手は現役歌手。
この道のプロだ。
大丈夫、私なら。
そう暗示をかけ、軽く咳払いしてから息を沢山吸い込んだ。
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おげげいげ(プロフ) - 無名さん» 待たせてしまい、申し訳ありませんでした! (2021年10月11日 15時) (レス) id: 2c07cc7f92 (このIDを非表示/違反報告)
無名 - 復活おめでとうございます!ワ-イ (2021年10月10日 17時) (レス) id: 776fdad7d6 (このIDを非表示/違反報告)
ヘル - おう…気を付けてー! (2021年9月20日 0時) (レス) id: efcdee336a (このIDを非表示/違反報告)
たっくぅ - 楽しみだぜ ゲヘヘヘヘ (2021年9月17日 22時) (レス) id: b647fd1089 (このIDを非表示/違反報告)
ヘル - さあこっからどうなるのか…楽しみですねぇ…フフフ (2021年9月13日 18時) (レス) id: 39d77ce8e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おげげいげ | 作成日時:2021年9月8日 20時