【コクロウサマ】と脱出。 ページ34
『で、二人はめでたく帰れるな。』
「そう、だね。うん。」
少し嗄れた声で返す彼氏さん。
無理をしたのだろう。あれだけ連続で難しい歌を歌ったのだから当たり前だが。
くるりと背を向けて出ていこうとする彼氏さんと彼女ちゃん。
後ろで項垂れるAgoti。
先に帰ってて構わない、とだけ言って二人は先に帰らせた。
私はAgotiの側にしゃがみこんだ。
『出ないの?』
「出れねぇだろ。俺は負けたんだ。」
煽りに来たのかと睨む姿は、思い通りにいかなくて拗ねる子供のようだった。
『ふぅん、出られる条件はなんだったっけ?』
「だから、ラップバトルをする、だ。だからお前も出ていけるだろ。……それとも敗者を馬鹿にしにきたのか?」
どうやらこちらの意図は伝わっていないらしい。
大ヒントを与えたというのに、鈍い奴め。
『だから、ラップバトルをすりゃ出られるんだろ。お前はあいつとラップバトルをした。条件にラップバトルに勝つ、とはないだろう?』
このニブチンは直接言わないと分からない。
そう言った瞬間に、俯いていた顔は物凄い速さで私を見つめた。
これは頓知に過ぎないが、ラップバトルに勝てなんて誰一人として言ってはいない。
正に。
『こうだ、と思い込む奴程化かされるんだな。』
「な、なぁ。本当に出れるのか……?」
『何を今更。出れなかったら出れなかったで、出れるまでとことん付き合ってやるよ。』
私が帰らなかったのはこういう意味もこめて、だからだ。
恋しい外へ、今。
『それじゃあ、いち、にの、さんで一歩踏み出すぞ。手はつないでいてくれよ?私が一人で出ちまった時にお前が私をもう一回引きずりこむために、な。』
ぎゅう、と強く握られた手から、Agotiの緊張がひしひしと伝わってくる。
『やり残したことは?』
「ない。さっさと帰りたい。……Sol、兄貴、Nikusa……」
目を細めて、先のことを案じているのか。それとも最悪の結末を予測してるのか。
『そうか。じゃあ出るぞ。いち、にの……』
さん。
ふわりと体が浮くような感覚。
繋いだ手を離さぬように、しっかりと掴む。
『Agoti、どうやら私達は賭けに勝ったようだ。』
賭けには勝ったが生憎の土砂降り。
一瞬で服がびしょびしょだ。
肌に服が張り付いて気持ち悪い。
「……ああ、クソ。ツイてねぇ。」
そうやって悪態をついたやつの顔は緩んでいた。
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おげげいげ(プロフ) - 無名さん» 待たせてしまい、申し訳ありませんでした! (2021年10月11日 15時) (レス) id: 2c07cc7f92 (このIDを非表示/違反報告)
無名 - 復活おめでとうございます!ワ-イ (2021年10月10日 17時) (レス) id: 776fdad7d6 (このIDを非表示/違反報告)
ヘル - おう…気を付けてー! (2021年9月20日 0時) (レス) id: efcdee336a (このIDを非表示/違反報告)
たっくぅ - 楽しみだぜ ゲヘヘヘヘ (2021年9月17日 22時) (レス) id: b647fd1089 (このIDを非表示/違反報告)
ヘル - さあこっからどうなるのか…楽しみですねぇ…フフフ (2021年9月13日 18時) (レス) id: 39d77ce8e1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おげげいげ | 作成日時:2021年9月8日 20時