コクロウサマ、どうか。 (ページ33)

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【少女】の憤怒。ページ33

『……あのな、怒りをぶつける分には構わない。むしろそれで前を向けるのならば大歓迎だ。だけどよ、節度ってもんがあるだろ。』

手放さないように、威嚇するように、二度と落とそうなんて思わせないように、ギッと睨みつける。

抱きとめた体は震えていて、もう大丈夫の言葉の代わりに抱きしめる力を強める。

「お前らは分かってねぇんだよ。俺がどれだけの人を心配させてるか、悲しませてるか。」

『あぁ、あぁ。分からねぇ。だってお前のことを私達は知らない。知らないもんを分かってないと言われても、当たり前なんだよ。』

そっと彼女ちゃんを彼氏さんの側に降ろす。

彼女ちゃんは何も言わずに彼氏さんに抱きつく。

彼氏さんは黙って彼女ちゃんの頭を撫でるだけだった。

「……あー、もういい。もういい！予定通り、お前らを潰してやる！」

『そうか、私が相手……と言いたいところだけど、彼氏さんがなにか言いたそうだから下がっとく。さあ、どうぞ。言いたいこと言ってやれ。』

前へ、ゆっくりと歩いてきて、彼氏さんは一言。

「Agotiは僕の彼女を落として、何がしたかったの？」

マイクを握る手は震えていた。

「お前が絶望して、負けてくれりゃ俺は満足だ。」

「そっか、なら。容赦はしない。」

マイクを持ち直して言い放つ姿はいつにも増してかっこよかった。

『……3、2、1……go。』

あまりの事に手が震えている彼女ちゃんから、音楽プレイヤーを借りて音楽を流す。

今までの怒りを互いにぶつけ合うように、力強い声が白の世界を彩る。

Agotiの気持ちも分からないという訳じゃない。

むしろ痛いほどに分かる。

長い孤独は、時に人を歪ませるものだ。

抑えて、抑えて、爆発した本音が今の原動力なんだろう。

家族を置いていき、大切な人を置いていき。

私も近くにいるようで、会えない人への気持ちはよく分かる。

だからといって人を貶めたり、生贄に差し出す真似が許される訳ではないが。

掛け合いをするかのように互い違いに歌う姿は、ライバルとは思えないくらいのコンビネーションだ。

少なくとも私は分かりはしないが、きっとどこかで共通点でもあるのだろう。

そんなこんなで曲も終盤。

Agotiは最後の足掻きかのように細かくて速いリズムを刻む。

流石にヤバいか？と思ったが杞憂だったようだ。

彼氏さんは見事に間違えることなく歌いきった。

これには文句をつけられまい。

彼氏さんの完全勝利で幕を閉じたのだった。