70話 ページ29
一年で一番楽しい行事と言っても過言ではない文化祭。
そこに涙を垂れ流しながら歩いている生徒がいたら誰もが一度は振り返るだろう。
お客さん、在校生、その他色んな人の視線を一身に受けて私は廊下を歩いていた。
その時誰かが私の肩に触れて、その人を認識する前に暖かい温度に包まれる。
「ハァ‥‥‥心配した」
「‥‥‥‥亮平くん」
「終わった後に連絡しても全然返信来ないし。クラスの子に聞いたら急いで出てったって。‥‥‥‥どうしたの？」
亮平くんが心底心配したような顔で私の顔を覗き込んできたけど何も返せなくて、涙ばかり溢れて言葉が何一つ出てこない。
何も言えなくて首を振る私を亮平くんが悲しそうに見た。
「‥‥‥俺にも、言えない？」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥最近ね、Aのことが分からない。昔は何でも分かってたのに」
「‥‥‥‥？」
「Aと俺の2人だけで良かったのに。だから俺、」
「Aちゃん！！！！」
亮平くんが何かを言いかけた時、私を呼ぶ声がして亮平くん越しでも背の高い彼の姿が見えた。
「ハァ‥‥‥ハァ‥‥ごめん、俺のせい。Aちゃんがそんな顔してるの俺のせいなんだ」
「君は、誰？」
「同じクラスの、村上って言います。‥‥Aちゃんと話す時間をください」
亮平くんが暫し村上くんを見つめたあと私の方を向いて、「どうする？」と聞いてきた。いつもの手で私の頭を撫でながら。
その手がいつも酷く安心する‥‥‥でも今は。
見上げた私の顔を見て亮平くんが何かを諦めたように笑った。
「‥‥‥分かったよ、行っておいで」
「亮平くん、ありがとう」
何も言わずに亮平くんが首を振る。
そして村上くんと一緒に歩き始めた時、後ろで小さく声が聞こえた気がした。
「A。‥‥‥ごめんね」
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作者名：Haniko | 作成日時：2022年11月23日 11時
