68話 ページ27
ブブッ
どれくらい時間が経ったんだろう。
携帯の通知が来た音がして開いてみると、時刻は13時になろうとしていた。
Ryohei.A
『A大丈夫？本番も大事だけどもし体調が辛かったら周りの人に言うんだよ』
本番。そうだ‥‥‥クラスの元に戻らなきゃ。
あれからずっと考えて考えて、重くなった腰を上げた。
私には今、やらなければいけないことがあるんだ。
体育館に向かうとクラスメイトたちがすでに舞台の準備をしていて忙しそうだ。
私の姿を確認したみんなが口々に声をかけてくれたのに曖昧に返して役者の控え室に向かう。
部屋に入るとウィッグを被って衣装を見に纏った世界一可愛い白雪姫が鏡の前に座っていた。
「よく似合ってるね。舞子ちゃん」
「‥‥‥えっ」
信じられない表情で振り返った村上くんに、私は手に持っていた携帯を渡した。
画面に浮かび上がるメッセージで全てを察したのか、今度は泣きそうに表情を歪めた。‥‥‥本当に村上くんなんだ。
どこかで祈ってた。
は？舞子ちゃん？って振り返って
携帯を見て俺のじゃないよって
本番頑張ろうねって
そう言ってくれるいつもの村上くんを。
目の前の風景がグレーになっていくような感覚がする。
目の前の村上くんの表情もよく見えないままその場を去ろうとした。
だけど。
「待って。‥‥‥待って、ください」
後ろから腕を掴まれてその場から動けなくなる。
男の人に急に触られて嫌なはずなのに、その温度はよく知っていたもので、ちぐはぐな感情に自分でもよく分からなくなりそうだ。
「っ‥‥‥なに？」
「あ、ごめん！えっと」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥後で話したいことがあるから、放課後教室で待っててもらえませんか、？」
泣きそうな表情で村上くんが私を見上げる。
彼の方が背が高いはずなのに見上げるという表現がぴったり来る顔だ。泣きたいのは私の方だよ。
「‥‥‥‥分かりました。じゃあ」
「ありがとう」
「‥‥‥本番、頑張ってください」
「え？」
それだけ言い残して控え室を後にした。
村上くんを思ってのことじゃない。
一応主役だから精神面が不安定だと全体に支障を来す。
だから声をかけただけのことだ。
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作者名：Haniko | 作成日時：2022年11月23日 11時
