66話 ページ25
村上くんが俯いていた顔をあげて静かに口を開く。
「‥‥‥代役を立てるしかない」
「え、でも代役やれるやつ‥‥いる？」
「部長は？演出だし演劇部だし一番可能性はあるだろ」
「いや、俺は‥‥‥」
「部長は演劇部の方の公演があるから本番は出れないんだよ。そうだよね？」
「うん‥‥‥ごめん」
「じゃあマジで居ないじゃん。終わったわ‥‥」
「いるよ、もう1人。代役をできる人間が」
「え？」
「俺もずっと練習を見てたから、白雪姫のセリフなら入ってる。‥‥‥‥だから俺がやるよ、白雪姫の代役」
村上くんのその宣言にクラスがどよめいて、だけどその考えに納得したのが次第に前向きなムードに変わった。
ただ1人。岩本くんだけが、ずっと険しい顔で村上くんを見つめていた。
Ryohei.A
『おはよう！今日文化祭行かせてもらうね。何時ごろから一緒に回れそう？』
クラスが代役の村上くんを入れて最後の練習をしている中、亮平くんからLINEが届く。
照明の私が今この場で出来ることは特にないんだけど‥‥‥裏方だからといってこんな状況で文化祭を楽しめるわけがない。
申し訳ないけど亮平くんには断りの連絡を入れよう。
AA
『亮平くん、ごめんなさい。今日トラブルが起きちゃって文化祭回れなくなっちゃった。
本当にごめんね』
Ryohei.A
『マジか！実はもうすぐ教室まで来ちゃったんだよね‥‥‥。差し入れだけでも渡したいから、一瞬会えないかな？』
どうしよう。差し入れまで持ってきてくれたのに断るなんて‥‥‥。
一瞬だけなら抜け出しても良いだろうか。
休憩のタイミングで部長の方まで行ったは良いけど、肝心の一言が切り出せなくてもじもじしている私に村上くんが声をかけてくれた。
「どうしたの‥‥‥？」
「あ‥‥村上くん。ごめんなさい、今日回る約束してた幼馴染が来ちゃって。差し入れを持ってきてくれたみたいだから、ちょっと抜けても良い‥‥‥？」
「ちょっと待ってて。確認してみる！」
そう言うと部長の方まで走ってくれて確認をとってくれた。
「大丈夫だって！そのまま回ってきちゃっても良いみたいだけど」
「ううん。それは申し訳ないから一瞬行って戻ってくる！‥‥‥村上くん」
「ん？」
「昨日もカッコよかったけど、今日代役やるって言ったときが、一番カッコよかった。‥‥‥応援してます」
私は一礼して急いでその場を後にした。
村上くんから何の言葉も聞こえないうちに。
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作者名：Haniko | 作成日時：2022年11月23日 11時
