66話 ページ22
夜。
自転車を漕いで私は夕陽が見えるあの川辺を目指した。
もうあの夕陽は見えなくて、空に広がるのは満点の青空と寂しそうに浮かぶ月だけど。
たどり着いて川辺に座り込む。
夏なのに私の指先は少し震えていた。
夜風で体が冷えているのかな。どうしてだろう。
「Aちゃん」
あれからどれ程の時間が経ったのか、突然声が聞こえる。
ゆっくりと振り返るとそこには照くんが息を切らして立っていた。
「‥‥‥ハァ、危ないよ。こんな夜に一人で」
「なんで」
「‥‥‥佐久間から、連絡もらった。一人でAちゃんが抜け出したから、探してくれって」
「‥‥‥‥そっか」
佐久間が探してくれるわけじゃないんだ。
まぁ、探してくれるわけないか。
「振られちゃった」
私がそう言うと照くんの動きが止まった。
「あーあ、振られちゃったよ私。でも変なタイミングで言っちゃったからそりゃ振られるかぁって」
「‥‥‥‥」
「ここでね、夕陽が見えたんだ。太陽が大きくて、真っ赤に辺りを照らしてて。‥‥なんかそのムードに当てられて？ここでポロッと」
「‥‥‥Aちゃん」
「まぁ、昔からの幼馴染だもんなぁ。そんな目で見れないよね？困らせちゃ」
「Aちゃん」
照くんが私の隣に座って背中に手を当てた。
震える体に暖かい体温を感じてしまったら、もう限界だった。
「‥‥‥‥知ってた？」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥佐久間さ、死んじゃうんだって」
「‥‥‥‥」
「‥‥‥さく、佐久間‥‥死ん‥‥死んじゃっ‥‥‥‥」
目が勝手に潤んで頬が熱くなる。頬どころじゃない。全身が燃え上がるように熱くて叫び出してしまいたいような衝動に駆られた。
そんな私を照くんはただ黙って抱きしめて、背中を摩り続けてくれた。
夕陽に照らされた佐久間から放たれた言葉が忘れられない。
『‥‥‥‥ごめん。Aちゃんとは付き合えない』
『そ、そっか。ごめん急に変なこと』
『待って。聞いて？Aちゃん』
『‥‥‥‥なに？』
『俺ね、Aちゃんにずっと隠してたことがある』
『隠してたこと‥‥‥？』
『ずっと騙しててごめん。でも、どうせバレるかなぁって。そしたらAちゃん多分‥‥‥‥いやきっと。悲しむと思うから』
『‥‥‥どんな秘密なの』
俺、本当は病気治ってない。
余命宣告受けて、もって後半年だって。
それが半年前の話ね？
‥‥‥‥‥だから、俺もうすぐ死ぬんだ。
ごめんね、Aちゃん。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 182人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：Haniko | 作成日時：2022年10月27日 18時
