45話.変わらないもの ページ1
「‥‥‥♪‥‥‥‥♪」
「‥‥‥‥」
佐久間が鼻唄を歌いながらホールの掃除をしているのを、庭の草むしりをしながらじっと見つめる。
楽しそうだ。
なんか良いことでもあったのかな。
良いこと‥‥‥良いことあったか。
私の脳裏に昨日のバーベキューで見た二人の花火が浮かぶ。
あの時、二人が線香花火をしながら見つめあっている場面を目撃した私は、その瞬間に自分の気持ちを自覚してしまってあれ以上二人を見ていることができなかった。
つまり、逃げ出したんだ。
もしかしたらあの後由依ちゃんから告白されたり、良い感じの雰囲気になるような出来事があったのかもしれない。
良かったじゃん。
あんな可愛い子に想われてあんた幸せ者だよ。
前までの私なら、そう言って全力で茶化していた。
ひとしきり茶化してから、絶対に背中を押していた。
でも、とてもじゃないけど佐久間の背中を押すようなことは今の私には出来そうになかった。
ご機嫌に掃除していた佐久間と窓越しに目が合う。
全力で大きく手を振ってくる佐久間に対し私は曖昧にしか振り返すことができなかった。
あんな全力で‥‥‥。凄い必死な顔だ。
ん？なんか言ってる‥‥‥？
イ
エ
ロ
いや違う。
二
ゲ
ロ
「にげろ？」
そう呟いた瞬間私の頭上から勢いよく水が降ってきた。
シャワーみたいに降ってきた水に何も出来ず、ただ呆然と立ち尽くす。
「あら、ごめんごめん！ごめんねぇ。
まだAちゃんいると思わなくて‥‥すまないね」
オーナーが珍しく慌てて出て来てそう謝った。
決まった時間になるとスプリンクラーから水が出てくるようになっていて、それは最初の方にオーナーから教えてもらっていた共有事項だったのに。
うっかりボケてずっと草むしりをしていた私が悪いです‥‥。
途端に自分の何もかもが嫌になってしまって、何も言わずただ黙って頭を下げる。
「Aちゃん‥‥‥？」
オーナーの心配そうな声が後ろから聞こえる。
その声に返す余裕もなく、着替えるために自室へと戻った。
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作者名：Haniko | 作成日時：2022年10月27日 18時
