8話 ページ8
そう覚悟した私の気合に反して、向井くんはいつも通りのトーンで「Aちゃんはどっちやと思う？」と聞いてきた。
「‥‥‥付き合ってると思う」
「ファイナルアンサー？」
「茶化す質問じゃないよ」
「‥‥‥やんなぁ」
つまらなそうにそう呟いた向井くんは、ハンドルを回して角を曲がった。
段々車から流れる風景が見慣れたものに変わっていく。
到着まで、あと14分。
「Aちゃんの言う通りよ」
一瞬、ほんの一瞬。呼吸が止まった。
さっきまで柔らかく温かいもので満たされていた胸の中に、硬くて重たい物がどんどん積もっていって息が苦しい。
そこで気づく。
友達のために聞いた質問は、紛れもなく自分のためのものだった。
「女の子、断りきれんねん。泣かせてまうと思って、泣かんで泣かんで〜て抱きしめてるうちにあれよあれよでな」
隣から聞こえるトーンは至って普通。
申し訳なさそう、とかヘラヘラしてそう、とかそういった雰囲気は無く。普通の日常会話をしているようなテンションで。
向井くんが言った「あれよあれよ」を想像してみた。
泣き出しちゃった女の子に対して、いつものテンション高いキャラは封じて優しい声で
「だいじょーぶ。だいじょーぶよ」
って抱きしめた後、その子の顔を覗き込んで大きな手の平で涙を拭いてあげるのかな。
面倒見のいい向井くんのことだから。
どうしたら泣き止むん‥‥‥。
そう困った顔で溢す彼に「じゃあ付き合って」
なんて言ったらその先は簡単なのだろうか。
「でも‥‥‥俺他にも付き合ってる子おって」
「それでもいい。康二と付き合えるなら」
向井くんの瞳が一瞬揺れて、だけどその揺れは一瞬で治る。こんな場面を何度も迎えた彼に今更迷いなんてないのだから。
「‥‥‥ほな、付き合うか」
「どこら辺で降ろせばいい？」
「向井くんの気持ちは？」
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作者名：Haniko | 作成日時：2024年3月7日 1時
