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気がつくと、3畳あまりの粗末な部屋は暗くなっていた。
Vの膝に頭を預けたまま眠ってしまったようだ。
微かに聞こえる生活音で母が帰宅していることが分かった。
｢起きた？もう少し寝てても良かったのに｣
そう言ってVが私の髪の毛を長い指で掬った。
｢もう大丈夫｣
Vの膝からゆっくりと起き上がり、緩慢な動きでカバンの中身を漁り、購買で買っておいたパンを取り出した。
少しだけ塩気のある素朴なそれを口に入れながらぼんやりと考える。
これから先、つまり学校を卒業したら私はどうするんだろう。
いや、悪魔は私をどうするつもりなんだろう。
辛うじて学校に籍を残せているという事は、母はその面でだけは私を認識してくれているということだ。
世間体を重んじているだけかもしれないが、今の私にはそれですら自分の存在を感じられる方法だった。
でもあと数ヶ月もすれば、私は学生ではなくなる。
何者でもなくなることに不安は募るばかりだ。
｢Aが考えてることくらい分かるけど
とにかく今は何も考えたらいけないよ｣
｢分かってる 決めるのは私じゃない｣
｢うーん｣
そうじゃないんだけどね、と言いながらVは私の肩に頭を寄せた。
｢明日はバイトでしょ？｣
｢うん｣
3ヶ月前のあの日から母が私を居ないものとして生活するようになったので、何とか働いて食べるものを調達しないといけなくなった。
こんなにも心は空っぽなのに、生きているうちはお腹が減る。なんとも不便なことだ。
薄暗い部屋の中で悪魔と寄り添って時間が経つのを待つ。
生活音が途絶えた後、のそのそと立ち上がってシャワーを浴びに向かう。
暗い廊下をひたひたと足音を消しながら歩く私を、家ですら歓迎していないように見える。
｢新しい傷が出来ないだけで俺は嬉しいんだけどな｣
下着を脱いだ私の背中をなぞりながらVが呟く。
｢消えないものがあるのは不愉快だけどね｣
更に呟きながら手のひらで温めるように深い傷跡を覆う。
本当に悪魔のくせに、温かいのが悔しい。
｢悪魔なら傷跡くらい消せないの？｣
｢Aが望むなら出来るよ｣
｢やめとく｣
この期に及んで自分でも呆れるが
消えない傷ですら、手放せないでいる。
とてつもなく滑稽だ。
短時間でシャワーを浴びる私を、Vは風呂のふちに腰掛けながら見つめる。
水に濡れることのないそれは、やはり異質だった。
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K(プロフ) - 🇰🇷💜さん» コメントありがとうございます。お返事が遅くなってしまって申し訳ございません。本当に嬉しいお言葉ありがとうございます！ (2022年1月28日 11時) (
レス) id: 2712528a63 (このIDを非表示/違反報告)
🇰🇷💜 - めっっっっっっちゃいい話しです！最後泣いてしまいました｡ﾟ(ﾟ´Д｀ﾟ)ﾟ｡ (2021年12月28日 18時) (レス) @page30 id: 1c3d5c9a9d (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - とりむねにくさん» 2度目のコメント、本当にありがとうございます。読み返すと結末を知っている分、別の見え方がすればいいなと思って書いたので 読み返していただけて本当に嬉しいです。温かいお言葉を本当にありがとうございます、とてもとても嬉しいです。 (2021年10月12日 21時) (レス) id: d7c2a5623f (このIDを非表示/違反報告)
とりむねにく(プロフ) - 2度目のコメントです。もう何度もこのお話を繰り返し読んでいます。読むたびに胸が苦しくて、でも未来あるヒロインのこれからに少しの暖かさを感じて何度も泣いてしまいます。うまく言葉に言い表せないのですが、私にとって凄く大切なお話です。ありがとうございます (2021年10月12日 20時) (レス) @page16 id: 69a1b6ff8d (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - とりむねにくさん» コメントのありがとうございます！凄く嬉しいです、本当にありがとうございます。これからもじわじわと色んなお話を書きたいなと思っていますのでよろしければご覧頂けると幸いです！ (2021年10月9日 7時) (レス) id: d7c2a5623f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：K | 作成日時：2021年9月27日 14時
