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遠き夢見し春の果て
卒業式の朝は、神様がこの日のためにとびきりの晴天を用意していたように晴れ渡っていた。
旅立ちの日にが、マイクも持たない生徒たちの地声で体育館をじんわりと揺らし、定期的に聞こえる鼻をすする音で満たされる。
相変わらず皺の寄った薄汚れた制服の胸に赤い花が咲いている。
卒業証書を授与するための点呼が高らかに反響し、規律正しい靴音がそれに応じる。
自分の名前が呼ばれる時、私は出来る限り背筋を伸ばした。
生徒の座る椅子の間にある花道に、我が物顔で胡座をかきにやりと笑う彼に 少しでも誇らしい自分を見せたかった。
卒業証書を受け取り、仰々しい垂れ幕が成された舞台の真ん中に立ち、お辞儀をする時
私はしっかりと彼の目を見つめた。
深々と頭を下げ、凛々しく顔を上げて見せた。
もうほとんど見えなくなってしまったVは満足そうに唇をしならせ、骨ばった大きな両手で拍手をした。
私にしか聞こえないそれは、どんな歓声よりも力強く、幸せな音だった。
｢Aちゃん、ぜったいにまた会おうね｣
長いまつ毛を涙で濡らした彼女は私の痩せ細って不格好な両手を強く握った。
握り返した彼女の手はふくふくと柔らかくて温かかった。
V以外の誰かの体温を感じたのは久しぶりだった。
こんなにも温かいのか、と驚きながら
軽く笑いそれに応えた。
遂に私は 学生の私 を手放した。
桜はまだ咲かない。今にも咲き誇りそうな大きな蕾を風に揺らしてその時を待っているようだった。
帰り道の途中、卒業証書が入った筒を持った私を横目で盗み見るVに
｢何？｣
と聞くと、彼は喉の奥を鳴らしながら
｢綺麗だなと思って｣
と言った。
私はもう、否定はしなかった。
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K(プロフ) - 🇰🇷💜さん» コメントありがとうございます。お返事が遅くなってしまって申し訳ございません。本当に嬉しいお言葉ありがとうございます！ (2022年1月28日 11時) (
レス) id: 2712528a63 (このIDを非表示/違反報告)
🇰🇷💜 - めっっっっっっちゃいい話しです！最後泣いてしまいました｡ﾟ(ﾟ´Д｀ﾟ)ﾟ｡ (2021年12月28日 18時) (レス) @page30 id: 1c3d5c9a9d (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - とりむねにくさん» 2度目のコメント、本当にありがとうございます。読み返すと結末を知っている分、別の見え方がすればいいなと思って書いたので 読み返していただけて本当に嬉しいです。温かいお言葉を本当にありがとうございます、とてもとても嬉しいです。 (2021年10月12日 21時) (レス) id: d7c2a5623f (このIDを非表示/違反報告)
とりむねにく(プロフ) - 2度目のコメントです。もう何度もこのお話を繰り返し読んでいます。読むたびに胸が苦しくて、でも未来あるヒロインのこれからに少しの暖かさを感じて何度も泣いてしまいます。うまく言葉に言い表せないのですが、私にとって凄く大切なお話です。ありがとうございます (2021年10月12日 20時) (レス) @page16 id: 69a1b6ff8d (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - とりむねにくさん» コメントのありがとうございます！凄く嬉しいです、本当にありがとうございます。これからもじわじわと色んなお話を書きたいなと思っていますのでよろしければご覧頂けると幸いです！ (2021年10月9日 7時) (レス) id: d7c2a5623f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：K | 作成日時：2021年9月27日 14時
