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嫌なことというのは、真逆の場所にいる時にこそ起こりうるものだった。
毎日を心静かに過ごしていた私にとって青天の霹靂のような出来事が起きてしまった。
卒業が目の前まで来た頃
担任の女性から言われた言葉が私を氷水に頭から落とした。
｢学費が支払われてないの｣
母はとうとう、世間体よりも私を無いものとしたい気持ちを優先したのだった。
酷く喉が渇いて、出した声はからからに掠れていた。
｢そう‥‥ですか｣
壊れたテレビの映像のようになってしまったVが静かに私の肩を抱く。
金額を聞いて、早急に支払うことを約束した。払えない額ではなかった。しかし問題はそこではなかった。
勿論、母に遂に見放された悲しみもあったにはあったのだが
それよりも
｢V‥‥ごめん｣
｢Aが謝ることじゃないよ｣
下校後すぐに銀行へ行き、振込を終えたあとの通帳を眺めながら私は項垂れた。
遠くの街にある、話にしか聞いたことの無い煌びやかな遊園地を目指していた。
それだけを目標にしてきたのが、こんなにも簡単にあっさりとATMに飲み込まれてしまった。
機械的な感謝の言葉を聞いて、更に落胆の色は濃くなった。
｢すごく楽しみにしてた｣
｢どこだっていいさ｣
近くの海だって、大きな公園だって、どこだっていいんだよ
と私の頬を撫でるVに、行き場のない悲しみを伝えるすべがなかった。
何より私自身が仕方の無いことだと分かっていたのだ。
結局雪は積もらなかった。
灰色のアスファルトをとぼとぼと歩く私をVはただただ黙って見つめていた。
｢A｣
ふと頭に手を置かれ、名前を呼ばれる。
顔を上げるとVはにっこりと笑いながら、小さな公園を指さした。
｢少し寄ろう｣
公園は枯れ草が好き好きに生え、幼児向けの滑り台はくすんだ色をしている。あとは同じくくすんだ青色のジャングルジムがあるだけの寂しい空間だった。
石のベンチに座り、私はもう一度Vに謝罪した。
｢ほんとにごめんね｣
私はわかっていた。
あんなにも必死になっていたのは、私たちには もうあまり時間が残されていないからだ。
ザラザラと映像が乱れるように、Vは揺らぐ。
悲しくないわけなんかなかった。
｢昔、一度だけ一緒に遊園地を見たよね｣
遊園地に行った記憶はなかったが
Vは遊園地を見た、と言った。記憶の断片を辿れば確かに幼い頃、車の窓から今にも壊れてしまいそうな観覧車を見た気がした。
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K(プロフ) - 🇰🇷💜さん» コメントありがとうございます。お返事が遅くなってしまって申し訳ございません。本当に嬉しいお言葉ありがとうございます！ (2022年1月28日 11時) (
レス) id: 2712528a63 (このIDを非表示/違反報告)
🇰🇷💜 - めっっっっっっちゃいい話しです！最後泣いてしまいました｡ﾟ(ﾟ´Д｀ﾟ)ﾟ｡ (2021年12月28日 18時) (レス) @page30 id: 1c3d5c9a9d (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - とりむねにくさん» 2度目のコメント、本当にありがとうございます。読み返すと結末を知っている分、別の見え方がすればいいなと思って書いたので 読み返していただけて本当に嬉しいです。温かいお言葉を本当にありがとうございます、とてもとても嬉しいです。 (2021年10月12日 21時) (レス) id: d7c2a5623f (このIDを非表示/違反報告)
とりむねにく(プロフ) - 2度目のコメントです。もう何度もこのお話を繰り返し読んでいます。読むたびに胸が苦しくて、でも未来あるヒロインのこれからに少しの暖かさを感じて何度も泣いてしまいます。うまく言葉に言い表せないのですが、私にとって凄く大切なお話です。ありがとうございます (2021年10月12日 20時) (レス) @page16 id: 69a1b6ff8d (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - とりむねにくさん» コメントのありがとうございます！凄く嬉しいです、本当にありがとうございます。これからもじわじわと色んなお話を書きたいなと思っていますのでよろしければご覧頂けると幸いです！ (2021年10月9日 7時) (レス) id: d7c2a5623f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：K | 作成日時：2021年9月27日 14時
