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歩いていても足の感覚がなかった。
これが浮き足立つ、という事なのか。
隣にいるそれが、何年も前から知り尽くしているそれが
急に別のものにすげ変わったように思えてならない。
何も変わってないのに全てが変わったようだった。
変わったのは悪魔だ。
私ではない。
何故だか分からないが、そんな言葉を何度も頭の中で反芻していた。
家の電気は煌々と付いていて
それを見てようやく、別の思考が蘇ってきた。
｢大丈夫｣
Vはそれを察してか私の背中をするっと撫でた。
悔しいが、心強かった。
やはり私には悪魔が必要なのだ。
ポケット中の鍵と同じくらい冷えた心臓を宥めながら階段を上がる。
汚れた206号室の扉は私を拒んでいるように見えるが
がちゃりと鍵を捻ると仕方なさげに口を開けた。
廊下にリビングからの光が漏れている。
生活音が一瞬止まったように聞こえた。母が私に気づいたのだろう。
｢そういえば、食べ物を買ってきてないけど｣
Vが私の顔を覗き込む。
言われてやっと気がついた。確かにそうだ、いつもならバイトの帰り道にコンビニやスーパーに寄るのだが
今日は何だか色々とありすぎて完全に忘れてしまっていた。
とりあえず自室にするりと入り、カバンと洗濯物の袋を置く。
一息ついて考えたが、空腹感はなかった。
｢忘れちゃった
でもお腹空いてないから今日はいいや｣
｢朝から何も食べてないのに？｣
｢うん‥‥今日はいいの｣
一瞬、まだ何か言いたげな顔をしたが悪魔はそっか。と一言だけ発した。
とにかく今日はもう、何も考えたくなかった。
雨で濡れた洋服を脱ぐとじわりと鳥肌が立った。
もう今年が終わるまで幾分かしかない。
窓のない部屋だ、すきま風なの無いはずなのにとにかく寒かった。
鳥肌の立つ腕をさするとVはふ、と笑った。
｢A、おいで｣
いつものように腕を広げる悪魔が恋しくてたまらなかった。
このままでいい。ずっとこのままでいい。
変わりたくない。変わってほしくない。
悪魔の腕の中で、独特の甘い匂いを嗅ぎながら眠ってしまいたかったのに
瞑ってみた目の奥で、
雨、同僚の顔、濡れる白いシャツ、透明の傘、チカチカと点滅する蛍光灯
それらが古いスライドショーのように繰り返しよぎって
なかなか眠らせてはくれなかった。
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K(プロフ) - 🇰🇷💜さん» コメントありがとうございます。お返事が遅くなってしまって申し訳ございません。本当に嬉しいお言葉ありがとうございます！ (2022年1月28日 11時) (
レス) id: 2712528a63 (このIDを非表示/違反報告)
🇰🇷💜 - めっっっっっっちゃいい話しです！最後泣いてしまいました｡ﾟ(ﾟ´Д｀ﾟ)ﾟ｡ (2021年12月28日 18時) (レス) @page30 id: 1c3d5c9a9d (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - とりむねにくさん» 2度目のコメント、本当にありがとうございます。読み返すと結末を知っている分、別の見え方がすればいいなと思って書いたので 読み返していただけて本当に嬉しいです。温かいお言葉を本当にありがとうございます、とてもとても嬉しいです。 (2021年10月12日 21時) (レス) id: d7c2a5623f (このIDを非表示/違反報告)
とりむねにく(プロフ) - 2度目のコメントです。もう何度もこのお話を繰り返し読んでいます。読むたびに胸が苦しくて、でも未来あるヒロインのこれからに少しの暖かさを感じて何度も泣いてしまいます。うまく言葉に言い表せないのですが、私にとって凄く大切なお話です。ありがとうございます (2021年10月12日 20時) (レス) @page16 id: 69a1b6ff8d (このIDを非表示/違反報告)
K(プロフ) - とりむねにくさん» コメントのありがとうございます！凄く嬉しいです、本当にありがとうございます。これからもじわじわと色んなお話を書きたいなと思っていますのでよろしければご覧頂けると幸いです！ (2021年10月9日 7時) (レス) id: d7c2a5623f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：K | 作成日時：2021年9月27日 14時
