初めまして、結婚してください！ ⑦ (ページ1)

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その瞬間ページ1

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……サクッ。

針が動く音が聞こえた。

と、同時に。

「っ！」

薄かった匂いに甘さが戻る。

今、少しだけ涙の匂いが混じった。

俺の指先にそっと加わる僅かな力。

緩やかに訪れた変化にビックリして唇を離すと、まばたきをいくらかしてみせたA。

「Aっ！」

でも、まだ俺とは視線は合わず、ぼんやりしている。

「A？！俺が分かる？」
「…………テ、テ」

蛍の光ようなほんのりした輝きが深い琥珀色の瞳に宿っていた。

……よかった、間に合って。

「おはよ、A。気分はどう？痛いところとかない？」
「か、ら……が、……も……い」
「身体が重い？そっか、“暗示”のせいで長時間深いところに沈んでたからね。待ってて？ジニヒョン呼んでくる。
　あの人に頼めばきっと治してくれるよ」

……てか、治してもらわなきゃ俺、今度こそ本気でキレる。

Aの身体を抱いたままゆっくり横たえ、ベッドを降りた俺は、まだ“暗示”が抜けきれずぼんやりする彼女と軽く唇を重ねて離れた。

けど戻ってきて、

「今のは『おはよう』のちゅーね？」
「ふふ……」

もう一度口付けて離れた。

けど戻ってきて、

「さっきのは『おかえり』のちゅーね？」
「わ……かっ……」

今度は奪うような深い深いキスをして。

「は、……っ」
「……これは『愛してるよ』のちゅー」
「……ば、か……」

照れたAの甘い匂いがタンポポの綿毛が舞うように立ち上る。
まだ淡いその匂いが俺の身体中に染み込んでいく。
淡いのに俺の疲労が和らぎ、胸の中心がほわっと熱を持つ。

ああ、これだ。心も身体も暖かくなるこの感じ。

Aの『幸せ』の匂いだ。

「にひひ！ヒョン呼んでくる！」

戻せた。

俺が呼び戻せたんだ。
俺の声がちゃんと届いたんだ！

嬉しさを噛み締めながら今度こそベッドを離れた。