怖がらせたお詫びに ページ15
.
「ごめんなさい、私のせいで……」
「大丈夫。これくらいすぐに治るから」
あの後俺は彼女に腕を引かれ、ビーチバーのパラソルの席にいた。
ソフトドリンクの氷をハンカチに包んで、両手に包み込んで泣きながら、血で汚れ腫れあがった拳を一生懸命冷やしてくれる彼女。
こういうところのドリンクだって安いものじゃないのに、そこまで必死にならなくても俺達怪我しても勝手に治って消えちゃうからホントに心配いらないんだよね。
とまでは言わなくていいかって、黙って彼女の手の感触を楽しんでいる。
時々ちらっとこちらの顔を伺うように見て目が合うとさっと逸らす。
彼女が醸す匂いにはまだ少し、恐怖の匂いが残ってる。
「君こそ大丈夫だった？」
男の馬鹿力で握られた腕に手を当ててそっと擦った。
顔を赤くして俯き、何度か小さく頷いた彼女。
「そう……良かった」
俯いていた顔が漸く上がると不安げな目で俺を見つめ、静かに細い指が伸びる。
「私より貴方の方が大変……」
殴られた時に切れた口の端に触れるか触れないかの微妙なところで指先がゆらゆら迷っている。
その迷う指先を捕まえて頬に宛がった。
顔が急に赤くなり、同時に甘くて俺の好きな香りに似た芳香を強くして、俺を見つめる瞳がゆらゆらと揺れ始めた。
「平気、君を守れた証だから。怪我は男の勲章ってね？
ホントよかったよ、君が殴られなくて」
ちょっとでも恐怖を和らげたくて、彼女の優しい気持ちに感謝の気持ちを表したくなって、迷惑かけたお詫びに奢るって言ってみたら、
「え、そんな！私が逆にお詫びしなきゃいけないのに」
「いいって。喧嘩の現場なんて見せちゃって悪かったなって。怖かったでしょ？」
「え、っと……その……」
「だからお詫びに奢らせて？じゃないと俺の気が済まない」
俺に押し負けた彼女の手からびしょびしょになったハンカチを奪ってその手を引き、カウンターで彼女にカクテルを注文した。
グラスを手にさっきの席より波打ち際に近い席に腰を据えた俺達。
「すみません。ひとまずいただきます」
「ん！どーぞどーぞ」
キュッとグラスを傾けカクテルが流し込まれると、彼女の恐怖の香りにじわっと甘さが増し、俺のよく知る香りをさらに強くした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 860人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あがしおん(プロフ) - そす。さん» コメントありがとうございます♪早速おさらいまでしていただいてありがとうございます！大親友くんが幸せを掴むまでのドタバタをボチボチゆるっとお楽しみに！ (2020年1月16日 23時) (
レス) id: cab6f14aeb (このIDを非表示/違反報告)
そす。(プロフ) - ！！！！待ってました〜〜！！最初からとっても面白いです〜！じんくんのお話が完結した後、じみんちゃん、ゆんぎさん、じんくんのお話全部読み返したので準備バンタンですよー！テヒョン君のお話もしっかりついて行きます〜！頑張って下さい！！ (2020年1月16日 22時) (レス) id: d98d830880 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：あがしおん
| 作成日時：2020年1月7日 2時
