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毎日のように脚しげく通っていたAの病室。
足を踏み入れたときから空気感がまるで違う。あんなに病室いっぱいに甘い香りがしていたのに、今じゃもう薬品の匂いしかしない。人の気配を感じられないくらい恐ろしいほど静かで、規則的に聞こえる無機物が生み出す冷たい音だけがそこにAがまだ存在していることを教えてくれた。
歩み寄る足が重い。
昏睡状態になってからあっという間に痩せ細り、喉元には酸素を直接送り込むための器具が繋がり、規則正しく空気音を発し続けている。
離れていてもひと目で悪化が判る程だ。
Aの望みを叶えた後の姿。僕の我が儘に付き合わせてしまった結果。
こうなる事は分かっていたはずだ。
分かっていても切なくて辛くて悲しくて悔しくて。
覚悟していたとはいえ、胸が張り裂けそうだ。
ベッドサイドに立つと微かに甘い血の香りが鼻を掠めた。
その香りの源を辿ると、力なくベッドに伸びた痩せた両腕に無数の針の痕が痛々しく残っている。その肌を皮下出血が紫色に染めていて、そこから儚げに立ち上っていた。
折角の綺麗な肌が……。思わず眉をひそめた。
「痛そうだね……僕が治してあげる」
床に膝をつき、震える手でAの手を取り、腕の針の痕に軽く牙で傷付けそれを舐める。
うっすらと滲む蜜の甘さは随分と控えめになった。
それでも鼻に抜ける香りは変わらず甘くまろやかだ。
僕を癒し、満たす『愛』も少しも変わらない。
小さく付けた牙の傷と共に、注射痕も皮下出血も綺麗に消え去った。
ポケットからハンカチを取り出し、その腕を綺麗に拭った。
「ほら、綺麗になったよ。やっぱり傷はない方がいいからね」
そうだ。僕の正体を知られるきっかけって、こんな風に傷を舐めて治してあげたからだったね。
こんな時まで昔を思い出して頬が緩んでしまう。
同時に、耐えに耐えていた涙が遂にほろりと零れ落ちた。
願わくば、来世では怪我するような目には遭って欲しくないな。
「いつか生まれ変わったら、また僕に会いに来て？」
次は絶対守り抜いてみせる。
これ以上涙が落ちないように瞳を閉じて、色が失せ、乾いてひび割れた唇にそっと口づけた。
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あがしおん(プロフ) - chanさん» 嬉しいコメありがとうございます。とても励みになります！なかなか新しいお話を出せず申し訳ないです。ボチボチゆるっと頑張ります！ (2022年4月28日 7時) (
レス) id: 858700461f (このIDを非表示/違反報告)
chan(プロフ) - 何回も読み直しさせて頂いてます！涙がとまりません！！素敵な作品を見せて頂いてありがとうございます！！ (2022年4月28日 2時) (レス) @page50 id: 2c037efb89 (このIDを非表示/違反報告)
あがしおん(プロフ) - そす。さん» コメントありがとうございます！ジミンちゃんのお話から数えたら1年近くこのシリーズが続いてるってことだったのか？！え、長すぎ？私もびっくりです！そんなに長くお付き合いいただいて感謝しきりです！残るはあのお方……。ボチボチゆるっと……！ (2019年12月27日 1時) (レス) id: cab6f14aeb (このIDを非表示/違反報告)
あがしおん(プロフ) - てじそく.さん» コメントありがとうございます！わざわざ前作にまで戻って読んでいただいてたなんて！何といいますか……めちゃくちゃ嬉しいです！どうぞまた読みにいらしてください♪ (2019年12月27日 1時) (レス) id: cab6f14aeb (このIDを非表示/違反報告)
ろーらん?(プロフ) - あがしおんさん» 頑張りましょう！大好きです〜〜〜〜！！（涙） (2019年12月27日 1時) (レス) id: c96f5d7f61 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あがしおん
| 作成日時：2019年12月3日 18時
