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「あ、僕のだ。いつの間に落としたんだろ？」
わざとらしくそう言う僕に微笑む彼女。
「つい先程です。落ちた時に傷が入っていなければよろしいのですが」
「……大丈夫、気にしませんよ。古いものだからもう結構傷だらけなんです。
ありがとう、ええと、お名前は……」
チラッと胸の名札を覗き見た。
「A、さん？」
「……は、はいっ」
僕の両手に手を包み込まれ、名前を呼ばれ、ほんのり頬が染まった。
その瞬間、弾けるように彼女の甘く濃い香りが辺りの空気を染め上げる。
その香りが、衝動を抑えていた理性の鎖に小さなヒビを入れた。
あぁ、欲しい。絶対頂きたい。
でもこの場で彼女の柔肌に食らい付くわけにもいかないと、とにかく必死に堪えて涼しい顔でカフスボタンを受け取り、ポケットに収めた。
「またこちらにお伺いさせていただくときは、君に社内の案内をお願いしてもよろしいですか？」
「……えっ？」
「ふふ！冗談ですよ。いずれこちらに伺わせていただくのは本当ですから、またお会いできるのを楽しみにしています」
僕は軽く会釈して車に乗り込んだ。
遮光が効いたウィンドウガラスに映る僕の目は、再び興奮を示す紅い瞳。
車に乗り込んだとたん、緊張が緩んでもうかれこれ十分はこの目のままだ。
彼女の、あの堪らなく甘く蕩けるような香りが忘れられず、頂きたい衝動が疼きっぱなしなのだ。
「この後の予定は？」
カフスボタンを止め直しながら、秘書に予定の確認をする。
「このまま帰社しまして十六時から本社の全体会議、十九時から重役との晩餐会で今日の予定は終了となります」
「そう……。“食事”の暇がなくなるなぁ」
今はまずこの衝動を鎮めたい。
手元のスイッチを入れて運転手との間に間仕切りを出現させ、小さな密室を作り、
「ソヒョナ」
僕が名前で呼ぶと、隣で手帳をバッグに収めていた秘書の手が止まった。
「……はい、社長、」
「じゃないでしょ？」
僕が名前で呼んだ時。
「……はい、ソクジン様」
その時は僕の“食事”相手として。
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あがしおん(プロフ) - ミアさん» コメントありがとうございます！父親’sのお話を気に入ってくれてありがとうございます！ヴァンパイアシリーズはそれとなく接点を設けていますので、お楽しみいただけたかと思います。私も欠いてて楽しいので、またいつかこういった設定で書いてみたいです！ (2020年7月22日 21時) (
レス) id: 790268ff01 (このIDを非表示/違反報告)
ミア - 愛しのJasmineを見てこの作品を見たんですけど、設定が繋がっていてとてもおもしろいですね！そういう話が大好きなのでまたそうゆう作品を作ってくれたら嬉しいです。 (2020年7月22日 19時) (レス) id: 61c218d212 (このIDを非表示/違反報告)
あがしおん(プロフ) - みほんぬさん» みほんぬさん！コメントありがとうございます！お気に召していただけて何よりです。毎度のことながらボチボチゆるっとな更新ですのでのんびりお待ち下さい！ (2019年10月10日 0時) (レス) id: d4473d8198 (このIDを非表示/違反報告)
みほんぬ(プロフ) - あがしおんさん！待ってましたー！！族長様…最高です！また毎日の楽しみができました！ありがとうございます。いつもワクワクキュンキュンしながら読ませていただいております。また更新されるのを楽しみに日々過ごします！頑張って下さい！ (2019年10月10日 0時) (レス) id: 9284a0a7c9 (このIDを非表示/違反報告)
あがしおん(プロフ) - たきゆさん» たきゆさん！コメントありがとうございます！族長様を楽しみにしていただいて、作者も嬉しいです♪いつものボチボチゆるっと更新ですので、のんびりお待ちください。 (2019年10月5日 19時) (レス) id: 97c4c54377 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：あがしおん
| 作成日時：2019年7月13日 13時
