こんな僕でも・・・が欲しい！６

： 一か八か ページ27

YG side



　未だに冷気は緩むことは無く、結界と化した空間にある全てを、更には車内にいる俺達までをも凍り付かせようと冷気が迫っていた。

「ヒョン、このままじゃ拙いって……」

　Aの身体は小動物の様に小さく震え続け、顔色も悪くなっていた。
このままじゃ、手足が凍傷になりかねない。
ジミンの為にも、Aには傷一つ付けられないってのに。


「こうなったら、一か八かちょっとやってみるか」

　ヒョンが……長が持つ怒気が冷気なら、相反する怒気で打ち消すことができるかもしれない。

　上手くいけば、この冷気を和らげることができる。
しかし、一歩間違えれば……。

目の前のAの心臓が止まる。


「俺がコントロールできればいいだけの話だ」


　しかし、怒りの源になるきっかけがない。
過去の出来事じゃ怒りを呼ぶことはできない。今、この時で俺の怒りを呼べるもの……。


　目の前のAの姿が、あいつに見えた。


　かつての守れなかった者の姿、救えなかった者の姿。
テヒョンと俺が、愛した者の姿。


　あの頃も今も、俺の無力さは変わっていなかった。
　“眠り”にまで追い込んでしまうまでジミンの異変に気づいてやれなかった。
血に濡れたジミンを救う為にAを巻き込んだ。そのうえヒョンに嫌な役回りを強いらせてしまった。

「俺は、いつまで経っても無力なままだな」

　自分の弱さに腹が立つ。腕っぷしばかりが強くても相変わらず心が弱いままの俺。
現実から逃げる癖。目を背ける性根の悪さ。




　握る拳が震える。
心の奥底に眠らせていた本能の獣が、弱い者を排除しようと目を覚ます。
怒りが沸き起こる。




　まさか、自分の過去を思い出して怒りが生まれるとはな。


　Aから体を離し、怒りの照準を自分自身に向ける。



「……くっ」


　身体が自身の怒りが生む熱に冒される。


弱い者嫌う獣が、弱い俺を排除しようと身体の熱になって暴れ始めた。


　怒りが血を沸かせ、灼熱の血と変えて身体を内側から焼きながら巡る。

　脳がこの熱で熔けるような感覚に目が回る。
眼球が熱で沸き、視界が歪む。
生理的に流れる涙が湯気を上げる。


今なら幻覚が見れそうだ。



　




「ぐっ……う」


　自身の獣の怒りを体内で暴れさせること暫し。

　俺の周辺の空気がゆっくり温まっていく。
ヒョンの冷気と混ざり合い、少しずつそれを押し返し熱を持った空気が車内を温めていく。

　身を削った実験は成功したらしい。

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