追慕する男 ページ15
.
僕が衝動を抑えようとそわそわしてるうちに、おかゆが出来上がった模様。
「お待たせしました」
彼女が座る席の前に置かれた鍋敷きに、おひとり様用の土鍋とレンゲ。
「おかゆより食べごたえがある玉子雑炊にしてみたんですけど、食べられますか?」
「は、はい!ありがとうございます!」
「よかった……」
ふたを開けると、ちょっと懐かしい卵とお出汁の香り。
小葱が散らしてあって、美味しそう。
お茶碗によそってくれた玉子雑炊から湯気が上がる。
ことりと僕の前に茶碗を置き、そばに木のスプーンを添えた。
Aさんも一緒に食べるのか、もう1つのお茶碗にもよそっている。
「あ、少しだけ自分用に取っておくだけなんで……どうぞ、食べてください」
「は、はい、じゃあお先にいただきます」
「ふふ、はい。どうぞ」
スプーンで雑炊をひと掬いして、よ〜く冷ましてひと口、口に入れた。
出汁を吸った柔らかいご飯と、卵の優しい甘み。
母さんの作る玉子雑炊を思い出した。
「……おいしい、です」
「良かった。ゆっくり食べてくださいね?胃がびっくりしちゃうから」
「ふぁい……」
カツカツと茶碗の底からかき集めるように食べた。
何十年ぶりかな、雑炊なんて。
僕がまだ人間してて母さんが生きてた頃に、病弱だった僕が体調崩して熱が出ると、決まって玉子雑炊作ってくれてたっけ。
ヴァンパイアになった途端、病弱?なにそれオイシイの?ってくらい頑丈になっちゃったけど。
Aさんの雑炊を食べて、当に忘れていたはずの昔の記憶が呼び戻され、ちょっとしんみりしてしまった。
あ、そういえば母さんのお墓参り行ってないな。
不本意だけどあの色ボケ親父連れてたまには行こうかな……。
僕らしくない考えまで過っていた。
「……熱かったですか?雑炊。」
昔を懐かしんでちょっと涙目の僕を見て、口の中を火傷したとでも思ったんだろう。
Aさんがわざわざ僕に氷水の入ったコップを持ってきてくれた。
「ううん。大丈夫。でもお水、ありがとうございます」
笑って雑炊をまた口に運んだ。
1119人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
あがしおん(プロフ) - syky1814さん» コメントありがとうございます。間もなくパス外して更新しますので、もうちょっとだけお待ち下さい〜。 (2020年6月13日 21時) (レス) id: 4017986d72 (このIDを非表示/違反報告)
syky1814(プロフ) - はじめまして結婚してくださいのパスワードを教えてください。 (2020年6月13日 21時) (レス) id: 1e639eab67 (このIDを非表示/違反報告)
あがしおん(プロフ) - kinanekoさん» コメントありがとうございます!何だかガッツポーズが見える気がしてきましたwそんなに喜んでいただけると作者冥利に尽きます。ありがとうございます、ぼちぼちっと頑張ります♪ (2019年1月3日 22時) (レス) id: 1e736e073a (このIDを非表示/違反報告)
kinaneko(プロフ) - あがしおんさんの新作を見つけた時、「来た……!!!!よっしゃ!」と思いました!今年もいろんな作品が見たいです!頑張ってください!応援しています! (2019年1月3日 21時) (レス) id: 6812edf24f (このIDを非表示/違反報告)
あがしおん(プロフ) - ARMY&CARATさん» 私の拙い作品を気に入っていただけて、ありがとうございます!マイペースですが、更新頑張ります! (2018年12月29日 2時) (レス) id: 1e736e073a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:あがしおん | 作成日時:2018年12月25日 0時