bitter sweet＜桐生戦兎＞ ページ34
『せーんと』
｢桐生さん？｣
名前を呼ばれ、顔をあげる。
Aが俺の顔を覗き込んでいた。
｢あ、ああ。どうかしたか？｣
｢なんだか元気がないように思えたので｣
なんでもないよ。そう言えば、怪訝そうにティーカップにおかわりを淹れてくれる。
新しい世界で見つけたAは、酷く他人行儀な様子で俺に話しかける。他人だから、当たり前なのかもしれないけれど。
｢元気ないのはそっちだろ｣
返事がない。言ってから禁句だったことを思い出した。
しまったと思ってちらりと見てみると、Aの目からは涙がぽろぽろと溢れていた。
｢ごめんなさい。さっきの彼とは付き合って3年目だったので、ちょっとダメージを受けてしまって｣
放ったらかしにされた雫達は、机に落ちて弾ける。本当は手を伸ばして俺が拭ってやりたかった。
でも、そんなことができるはずもなく。
彼女の中に、俺の存在はない。
前の世界で大好きだった彼女は、この世界では知らない男と恋人になっていた。知らない男に、触れて、触れられて。
見つけた時は苛々して、悔しくて。でも安心もした。ちゃんと、Aには居場所があったのだから。
ところが、だ。
なんとなく追いかけてしまって、しばらく後に、Aがふられるその瞬間を見てしまった。
理由は合わないから。
性格の問題とか、仕事が忙しいとか。
Aは最後まで笑顔だった。笑顔で、｢そうだね｣と言って、笑顔で男と別れた。
そしてその後、帰り道で泣き出した。
人気がない道をわざわざ歩いて行こうとするものだから、心配になってまたつい追いかけてしまった、その先で。
耐えられなかった。
だから思わず話しかけてしまった。
大丈夫か？
と。
こういうとき、どうすればいいのかわからない。
そもそも、Aはどうして自分を家にあげたのか。普通、初対面の人間を自分の家に招いたりしない。それも自分から、男を。
それにしても、不思議だ。
『元気がないように見えたので』なんて、まるで俺を前から知っているような言い方。
それにこの話し方に関しても、何も言わない。
｢なんで俺を？｣
少し落ち着いてきたAに、今度は俺が紅茶を淹れて出す。見よう見まねだが、そう不味くはならないはずだ。
一口紅茶を飲んでから、彼女はぽつりぽつりと話し始めた。
｢桐生さんに似ている人を知っていて、なんだか気になったんです｣
それは葛城巧だろうか。それとも佐藤太郎なんだろうか。
｢すっごく頭がいい人なんですよ。でも、自分で天才って言っちゃう辺りが残念で｣
よかった、葛城巧だ。
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デリート(プロフ) - クリオネf。tさん» 了解です！書いたことがないので上手くできるかわかりませんが、頑張ります！ (2019年3月24日 2時) (
レス) id: 94669fbf54 (このIDを非表示/違反報告)
クリオネf。t - 永夢君がお相手で女攻めとか大丈夫ですか？無理ならそれでいいので！ (2019年3月24日 1時) (レス) id: fe04442c66 (このIDを非表示/違反報告)
デリート(プロフ) - 永流/Eruさん» ありがとうございます。どうかなーと思いながら書いていたので、そう言っていただけると嬉しいです。 (2019年2月8日 22時) (レス) id: 94669fbf54 (このIDを非表示/違反報告)
永流/Eru(プロフ) - ビルド感動しました。切ない終わり方メッチャ好きです。m(._.)m (2019年2月4日 0時) (レス) id: d36ee27f29 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：デリート | 作成日時：2018年2月19日 1時
