願わくば〈桐生戦兎〉 ページ33
魔王が世界を支配する時代。
どれだけ戦っても敵わない。犠牲だけがどんどん増えていく。
馬鹿な私は、そんな世界を変えたいと願った。
｢私も一緒に行く。そして今を変えてみせる｣
そう言ってツクヨミについて来てしまった私は今、51年前の2017年にいる。
｢桐生戦兎、天才的な頭脳を持つ物理学者。1年以上前の記憶をなくし、現在は喫茶店nascitaに居候中。合ってる？｣
｢ああ、合ってる｣
桐生戦兎、またの名を仮面ライダービルドは慌てる様子もなく頷く。
私が未来から来たと言ったときも、一瞬動揺しただけですぐに分析を始めた。
知性に満ちたその横顔には、何か惹かれるものがある。
彼と出会ったのはほんの数分前。
スマッシュと呼ばれる怪人に襲われていたところを助けてもらった。
あろうことか、時間移動の途中でこの時代に落ちてしまったのだ。なんとも情けないと思いながら出されたコーヒーを飲む。
｢うぅ、寒い…｣
隙間風に身を縮こませる。
薄手の半袖のシャツにジーパン。これが今の私の格好だ。店内と言えど寒い。
まさか11月に落ちるだなんて思ってもいなかったものだから、防寒具は持っていない。
震える私を見かねたのか、桐生戦兎が自分のコートを脱いで私の背にかけた。
そのコートに残った体温を感じ少しの間生き返ったような気分になるが、ダメだダメだと自分を律する。
｢いいよ。重ね重ね申し訳ないし｣
過去に不必要に干渉するわけにはいかないからと言ってコートを返す。
(優しい人だな)
父と母を早くに亡くし、オーマジオウと戦ってきた私にとって、こんな日常の中での優しさは縁遠いものだった。
うるっとくるのをなんとか耐えて笑顔を作る。
だけど桐生戦兎はそんな私にコートを押し付けて、ぽんと頭に手を置いた。
｢干渉なんて十分しすぎてるだろ。仲間が迎えに来るまでこれ着てろよ｣
受けとるべきか迷っていると｢ほら袖通す｣と言われて、慌てて袖に手を入れる。
体が温まっていくのを感じて頬が緩んだ。
ちらりと顔を見ると笑って頷かれたので、コートを着たまま座り直す。
｢ありがとう｣
謝るばかりであまり口に出すことのない言葉に気恥ずかしくなりながらお礼を言うと、桐生戦兎はくしゃっと笑って、｢どういたしまして｣と返事をした。
bitter sweet＜桐生戦兎＞→←晴れた日に〈桐生戦兎〉*(ごめんの続き)
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 37人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
デリート(プロフ) - クリオネf。tさん» 了解です！書いたことがないので上手くできるかわかりませんが、頑張ります！ (2019年3月24日 2時) (
レス) id: 94669fbf54 (このIDを非表示/違反報告)
クリオネf。t - 永夢君がお相手で女攻めとか大丈夫ですか？無理ならそれでいいので！ (2019年3月24日 1時) (レス) id: fe04442c66 (このIDを非表示/違反報告)
デリート(プロフ) - 永流/Eruさん» ありがとうございます。どうかなーと思いながら書いていたので、そう言っていただけると嬉しいです。 (2019年2月8日 22時) (レス) id: 94669fbf54 (このIDを非表示/違反報告)
永流/Eru(プロフ) - ビルド感動しました。切ない終わり方メッチャ好きです。m(._.)m (2019年2月4日 0時) (レス) id: d36ee27f29 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：デリート | 作成日時：2018年2月19日 1時
