【青夏 − M.J 】2 ページ37
＊
急かす様に追い立てられたシャワーのあと
そこに待っていたのは
ほかほか湯気のあがる肉じゃがでもなく
夏バテ予防にきくエスニック料理でもなく
体温を下げてくれる冷製パスタでもなく
透明な器に盛られた白い雪
…もとい、氷だった
確かにイイ匂いがしてたはずなんだけどと
きょろきょろキッチン内を見回すと
テールシチューらしき鍋がひとつ見える
だけど楽し気な様子のAに手を引かれ
また白い塊の前に舞い戻ってきた
「…かき氷？」
どこからどう見てもそれにしか見えないけど
一応？念のため？と思って聞いてみる
案の定というか
ウンウンと勢いよく頭を縦に振って
夏はやっぱりコレでしょ？
と得意げにブルーの液体を持ちあげた
我が家にはたくさんの調味料があるけど
さすがにそんな着色料たっぷりの
季節限定の調味料？はあるわけがない
「買ってきたの？」
確かカリフォルニアにいたはずで
来週も引き続き出張だったはずで
なんでこんなに帰りが早かったのかとか
テールシチューは食べないのかとか
このかき氷はデザートじゃないのかとか
なんでブルーハワイ限定なんだろうとか
聞きたいことはたくさんあるのに
「うん！そうっ
潤と一緒に夏を感じたくって！」
そんなキラキラと目を輝かせて言われたら
濁った心のドロドロと一緒に
どれもこれも流れていくみたいだ
まだらに染まった氷の粒たちは
舌の上であっというまにいなくなる
けれどそのままコクリと喉へ送れば
冷ややかなそれが体内を巡るのを
ちゃんと感じることができて
心は真反対にポカポカと温まった
何かと不器用な俺は
やっぱりなかなか変わらないけれど
ここにある小さな幸せを
ちゃんと掴むことができるなら
きっとまだやれるはずだ
ともすれば今日の出番が最後かもしれない
その鮮やかな液体を横目に
色付いた舌を見せ合いながら
そんな想いを巡らせる青い夏
Fin.
＊でこぼこ＊
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作者名：でこぼこ | 作成日時：2017年3月5日 1時
