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「―――奴らが逃亡した。見つけ次第射殺しろ」
けたたましい警報が鳴り響く中、そう言った教官は酷く愉しげに瞳を細めさせ私に銃を持たせる。
まさか、私にまでその命令が下されてしまうとは思いもしなかった。
腕の中でずっしりと重みを主張するそれの引き金に添えさせた指先が震え、焦点が大きくブレる。銃口の先で両手を挙げる彼は、最後に見た時と同じように眉を下げ笑っていた。
「A先生。俺のこと、殺すんか？」
「……第二分隊長、大人しく投降しなさい」
「いつもみたいに見逃してや」
「…ッ、トントン、お願いだから」
私は、君を殺したくなんて、ない。
捕まえた所で刑務所行きとなるのは確実だが、教官もそこまで鬼ではないだろう。きっと射殺の命は取り下げてくれる筈だ。
あれから二日間、彼があの窓から顔を覗かせる事はなかった。そして最後に、こんな出会い方。彼は仲間を先に行かせ、そして銃を向ける私の元にたったひとり残ったのだ。見逃して、なんて馬鹿なことを言って。
「……俺、二日間A先生に会えんくて、寂しかった」
「だから、なに、」
「もう二度と会えへんなんて、そんなん嫌や」
唐突に掛けられた彼の言葉は僅かに震えていた。
私だって、同じだ。君がいなくなった日々を想像したら涙が溢れる程に苦しくて、寂しくて、堪らなくなった。こんな思いを私に植え付けて、そして居なくなるなんて卑怯だと叫びたい。
「これで、最後やで。……俺と一緒に逃げてくれへんか」
真っ直ぐこちらに向けられた真っ赤な瞳に捕われて、心臓が大きく揺さぶられる。
でも、それじゃまだ、私の足は動かない。
「どうして、私を連れ出したいの？」
あの日くれなかった言葉が、欲しい。
君に人生を委ねてみてもいいと、思わせてほしい。
「……離れたくない、から、」
「うん」
「……っ、A先生が、好きやから……！」
そんな彼の叫びに、力の抜けた手から銃が滑り落ちていく。
気がつけば私の足は踏み出していて、そして彼の大きな身体を抱きしめていた。顔を上げればまん丸に見開かれた瞳に私が映しだされる。
「トントン。ここから、私を連れ出して」
君が手を引く先に幸せがあろうと、なかろうと。その隣にいさせてくれるのなら、こんな博打も悪くないと思ってしまった。だから、責任もって連れ出して。
君と一緒なら、どこへでも行くから。
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鯉口(プロフ) - 赤羽 紫音さん» コメントありがとうございます！ (2020年4月4日 3時) (
レス) id: ad6d0057cd (このIDを非表示/違反報告)
赤羽 紫音 - 凄い！ (2020年4月4日 2時) (レス) id: 527cd6ca75 (このIDを非表示/違反報告)
鯉口(プロフ) - ノアさん» 主催者の鯉口です。コメントありがとうございます(*^^*)まだまだ続きますので更新をお待ちください！ (2020年2月29日 1時) (レス) id: ad6d0057cd (このIDを非表示/違反報告)
ノア - めっちゃ好きです！ 文才分けて欲しいぃ((( 毎日、楽しみにさせてもらってます！ 更新頑張って下さい！ (2020年2月25日 22時) (レス) id: 47bc0266fa (このIDを非表示/違反報告)
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