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「はぁ。…まだいたの？」
「おん。A先生と話さんと寝付けへんやろし」
「……止めてよね、簡単にそういう事言うの」
チーノ助教は教官に呼ばれているようで直ぐに医務室から出ていった。ひとりになってから窓を開けてみれば、膝を三角に畳んでいたトントンが私に気付き、顔を上げてまたへらりと笑う。
その笑みは、毎度私から怒る気力というものを奪い去っていく。更には彼の声に、言葉に、不本意ながら一々心臓を揺さぶられてしまうから困ったものだ。
「ほんまの事やねんけどなぁ」
「……目の下、隈酷いよ。どうせ寝る時間もないんでしょ」
「あー、まぁ。そろそろほんまに時間ないからな」
タイムリミットは、あと三日。成功しても、失敗しても、トントンと顔を合わせる日はこの先もう二度ないのだろう。……それでいい、いいのだ。余計な気を負う必要が、なくなるのだから。
「なあ、A先生。ほんまに、俺と一緒に逃げるの嫌か？」
「嫌だよ。私になんのメリットがあるのさ」
「……せやんなぁ」
「それより、私とお喋りしてる暇があるなら皆と一緒に探索したら？」
「ちょっとくらい休憩させてや。正直、結構キツいねんで」
眉を下げてそう言うトントンの顔色はあまり良くない。まあ、これは彼に限らず、だろうけども。
外に出なくったって、大人しくここにいたらいいのに。そう思いながら私は窓の外に手を伸ばし、そしてこちらを見上げる彼の不健康そうな目元を指先でなぞった。
「……ねえ。何で私を、外に連れ出したいの？」
ずっと疑問だった。どうして私なんかを、と。
その答えが聞ければ、もしかしたら私は、彼の手を掴んでもいいと思ってしまうかもしれない。
しかし、トントンはそんな問いかけに困ったように笑って私の手にそうっと触れた。
「……内緒。そろそろ戻るな」
「あ、」
やんわりと手を退けさせて、「おやすみ」と一言残していった彼が第一隊舎の方へと走っていく。その背中を見送りながら、自分の中で顔を覗かせた寂しい、なんて感情にため息を零した。
「……うそ。本当は、嫌じゃないの」
素直になれない自分が嫌だ。彼の手を取るのはあまりにも博打で、その先に幸せや自由があるかは分からない。だから躊躇して、冷たい言葉で突き放してしまう。
ああ、時間がないのに今日も私は言えなかった。君と一緒にいたい。ここから連れ出してほしい。本当はそう思っているのに、私はまだ迷いを断ち切れない。
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鯉口(プロフ) - 赤羽 紫音さん» コメントありがとうございます！ (2020年4月4日 3時) (
レス) id: ad6d0057cd (このIDを非表示/違反報告)
赤羽 紫音 - 凄い！ (2020年4月4日 2時) (レス) id: 527cd6ca75 (このIDを非表示/違反報告)
鯉口(プロフ) - ノアさん» 主催者の鯉口です。コメントありがとうございます(*^^*)まだまだ続きますので更新をお待ちください！ (2020年2月29日 1時) (レス) id: ad6d0057cd (このIDを非表示/違反報告)
ノア - めっちゃ好きです！ 文才分けて欲しいぃ((( 毎日、楽しみにさせてもらってます！ 更新頑張って下さい！ (2020年2月25日 22時) (レス) id: 47bc0266fa (このIDを非表示/違反報告)
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