置き去り（syp） ページ32
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「A、いよいよ来週ですね。」
「はい！楽しみです！」
ニコニコと人のいい笑顔を浮かべたマザー。その“来週”が指す意味を知っていても尚彼女が笑みを歪めないのは、彼女も“其方の”人間だからという理由以外に存在しない。
此方も負けじと純粋な子供を演じて元気な返事をして見せれば、彼女はとても満足そうに頷くのだった。
「はい、Aは遊びに戻っていいわ。」そう言われて“マザーの部屋”を追い出される。扉を開けて外を覗けば、彼は既に其所にいた。
「ショッピ、待ってたの？」
「…やっと出てきた。最近呼び出し多ない？」
そんなことないよ、と笑えば彼は怪訝な表情を浮べる。所詮“マザーの部屋”とは孤児院の子供たちが唯一マザーを独り占めできる空間である。それが至福の時間である子供も、苦である子供ももちろん人それぞれだが、私はどうにもそこが居心地の良い空間には感じなかった。それはショッピも同じようで。
「あんな気味の悪いとこよう行けるなぁ」
「私だって好きで行ってるわけじゃない」
ショッピとは物心着いた頃からずっと一緒だった。いつも私の後ろをちょこまかついて歩くから一時期は姉弟だなんて呼ばれていたこともあり、血の繋がりは無いもののそれ以上の絆はあると確信している仲である。でも、そんな私が1週間後彼の前から消えるのだということを、彼は知らない。その理由は専ら、教えていないから以外にない。
私に与えられた1週間という期間は随分と前に設定されたものだった。軍人の英才教育を施すため、この国では昔より孤児院の子供たちを使う方針を取ってきていたのだ。そして、次に軍事学校へ派遣されるのが私だっただけ。予め死に場所の用意されている運命。保護者のいない子供に拒否権などないに等しい。そして、孤児院達も見捨てた親達も、国民もその事実を知る由もないのだ。
初めて宣告された運命は、マザーから直々にだった。1年後軍事学校へと移動が決まったと、他の子供たちには言わないでおくようにと、そう言われて私はその日マザーの部屋を出たのだった。そして煙のような真っ黒で汚い嘘を吐き出した。
1週間は存外短いものだった。まだ日も登らないうちに起き、他の子供たちを起こさないように忍び足でマザーの部屋へノックをした。出てきたマザーに連れられ、身支度をさせられたあとはもう何も覚えていない。最後に見た孤児院は酷く荒んでいて寂しげであった。…終ぞ愛すべき弟に別れの挨拶をすることは無かった。
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鯉口(プロフ) - 赤羽 紫音さん» コメントありがとうございます！ (2020年4月4日 3時) (
レス) id: ad6d0057cd (このIDを非表示/違反報告)
赤羽 紫音 - 凄い！ (2020年4月4日 2時) (レス) id: 527cd6ca75 (このIDを非表示/違反報告)
鯉口(プロフ) - ノアさん» 主催者の鯉口です。コメントありがとうございます(*^^*)まだまだ続きますので更新をお待ちください！ (2020年2月29日 1時) (レス) id: ad6d0057cd (このIDを非表示/違反報告)
ノア - めっちゃ好きです！ 文才分けて欲しいぃ((( 毎日、楽しみにさせてもらってます！ 更新頑張って下さい！ (2020年2月25日 22時) (レス) id: 47bc0266fa (このIDを非表示/違反報告)
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