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元カレがこんなにも最低な男だったとは知らなかった。
取引先の重役の娘と付き合ったことで変に自信を持たせ、ただでさえプライドが高かった男はさらに傲慢な態度に拍車をかけさせたのだろう。
そんな男の支配からもう外れている私は、遠慮します、ときっぱり断る。
こんなやつに肌を許すことも、暴かれることも絶対に嫌だった。
「もう貴方に支配されている、あの時の私じゃ、ない」
「大切な、大好きな人がいるから」
頭の中に蘭くんと竜胆くんの顔が浮かぶ。
もうとっくに私は2人のことが好きなのだ。
飼い犬としてではなくひとりの男のコとして、どちらか片方をじゃなくて両方を。
認めてしまえば今まで喉の奥に留まって詰まらせていたものがすとんと胸に落ちた気がした。
清々しい気分の私とは反対に、付き合っていた期間も含めてはじめて見せた私の抵抗に真っ赤な顔をして怒りをあらわにした元カレは
「生意気なんだよ」
と私の腕を力いっぱい掴むと自身の右腕を振り上げる。
私は咄嗟に目を瞑った。
いつまで経っても思っていた衝撃は来ず、その代わりに数日離れていても忘れることのない嗅ぎ慣れた香りが、少し低い温もりとともに私の体を後ろから包み込んだ。
腕を掴まれてた感触が消え「もう大丈夫だから目、開けろ?」と耳元で言われ恐る恐る言われた通りに目を開けば、私に振り上げられた腕を掴んで捻り上げている竜胆くんが見えた。
「なぁ、あんた、誰のに手ぇ出してんの?」
掴んだ腕と反対側の肩を押さえた竜胆くんはぐるる、と今にも噛みつきそうに唸る犬のように低い声で元カレを威嚇する。
「蘭っ、くん、竜胆、くんっ、なんでここに」
「俺も竜胆も忠犬だからさ、飼い主のピンチには駆けつけんの」
私を守るように後ろから抱きしめた蘭くんが褒めろ?と首を傾げた。
「なんだよお前らっ」
現状への理解が追いついてない様子の元カレが声を荒げる。
「なにって、俺らAに飼われてんの♡」
「お前こそなに汚い手で俺たちの大事なご主人様に触ってんの?」
ギリギリと後ろにまわしている腕を締め上げ
た竜胆くんは男の耳元で「食い殺されてぇ?」と牙を剥いた。
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作者名:kinu | 作成日時:2023年11月13日 21時