キールに沈んで (ページ40)

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「なんで来ちゃうかなぁ」

『なんで来ないって思えるんですか』

北山さんの隣に並ぶとフーっと煙を吐く彼

「臭いつくよ？」

『ですから一刻も早くここを出たいんですが…』

「しょうがねえな」

まだ長いタバコを灰皿に押し当てる

「電子に変えようとは思ってるんだけどねー。あ、藤ヶ谷は電子タバコだよね」

『そうなんですか』

「よし、外出よ」

ここを出たらまた彼は遠くに行くかな？
私たちあの日両思いになったんだよね？
付き合えないのはわかったけどさ
なんでなんにも無いの？

連絡すら取っちゃいけないの？

彼に言いたいことは沢山あるけど
それを伝えたら彼の負担になるかもしれなくて

喫煙所を出る彼の背中を追いながら
私はどうしたらいいのか分からなかった

「Aはさ、俺の事どう思ってる？」

『……』

「もう少しだけ時間ちょうだい」

『もう少しってどのくらい？』

「んー、どうだろうね」

そう曖昧に笑う彼

北山さんの抱えているものが解放されるのはいつですか？

『待つから、連絡くらいはしちゃだめですか？』

「え？」

『北山さんのこと待ちたいから、たまに連絡とかしたい』

手のひらをぎゅっと握りながらそう伝える

「あ''ーー！もう！」

『え！なに！？』

唸りながら頭をガシガシと掻いたとおもえば
私の腕を掴んで
喫煙所へ逆戻り

『北山さん？』

「名前」

『…宏光？』

名前を呼んだ途端包まれるのは彼の温もり

「好きだ。ほんとに好きなんだ」

『私も好きだよ』

「ちゃんと覚悟決めるから、色々落ち着くまで、
それまで少し待って欲しい」

『ずっと待つよ？』

「ありがとう」

喫煙所が外から見えないことをいい事に
私をキツく抱きしめる

それに応えるように彼の腰に腕を回して
彼との隙間が無いように近付く

「夜、連絡するから」

『うん』

「連絡先教えて？」

『ふふふ、聞くの遅くない？』

「うるせー」

交わしたキスは
タバコの臭いがして苦かったけど
彼から離れたくなくて
触れるだけのキスにただ応えていた