キールに沈んで (ページ39)

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撮影終わり
次の現場に向かう

マネージャーは車を回してくると言って
先にスタジオを出た

のそのそと身支度を終えて車へ向かうと
前方に見知った背中が2つ

1人は私を見つけてニコリと微笑むが
もう1人はフイッと顔を背けるわ
逃げようとするわ

…ほんとサイテー

『お疲れ様です』

「お疲れ様。橘ちゃんも同じスタジオだったんだね」

『みたいですね、
知っていれば先にご挨拶いったんですけど』

「俺と北山だけだから気にしないでいいよ」

藤ヶ谷さんは普通に話してくれるし
私だって藤ヶ谷さんと普通に話しているのに

この男は…

「俺ちょっと一服してくる」

「もうマネージャー来るぞ？」

「すぐ戻る」

ほらそうやって私を避ける

「ごめんね、なんか」

『あ、いえ…』

「多分ねしばらく北山はあんな感じだと思う。
1人で全部抱えて、1人が我慢すればいいってもんじゃないんだけどね」

申し訳なさそうな藤ヶ谷さんの顔を見て思う
やっぱり北山さんとちゃんと話したい

『あの、諒くんに、あ、マネージャーに
野暮用ですぐ戻るから待っててと伝えてください！』

「うん、わかった」

藤ヶ谷さんに頭を下げて
小走りで彼の背中を追う

喫煙所には北山さんしかいなくて
ゆっくりと扉を開けると

まるで私が来るのなんてお見通しだったように
ふわりと笑った

「あれ？藤ヶ谷さん、橘見ませんでした？」

「ちょっと野暮用だそうで」

「えええ～～」

「おい、藤ヶ谷。…北山は？」

「ちょっと一服だって」

「ったく…佐伯さんなんか嬉しそうですね」

「えぇ？そうですかぁ？」