キールに沈んで (ページ33)

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髪の毛を乾かさず
急いで寝室に戻るとパンツだけ履いた彼が誰かと電話をしていた

「わーってるって。大丈夫だから。はい、はーい。んじゃね。ほーい」

『あ、電話大丈夫？』

「うん、大丈夫」

『シャワー浴びる？』

「お、じゃあ借りようかな」

『分かった』

近付いた私をそっと抱きしめて微笑む

さっきまでの表情と違うことに少し戸惑いながらも
落ちてくるキスを受け入れる

「A、1個だけ謝らないといけないことがあるんだ」

『…なに？』

「俺、Aのこと本気で好きだよ」

『私もだよ…？』

「ふふ。ありがとう。でもAとは付き合えない」

『……そう』

その理由は聞かなくても分かる気がした

両思いだって分かったら必然的に交際が始まるものだと思っていた

でも、彼はアイドルだった

アイドルに恋人がいたら大変な騒ぎになることは
重々分かっている

あの人の時だって、
いや未だに私のSNSへの攻撃は少なからずある
それはあの人のことを本気で応援しているからこその行動だし
本当付き合っていない私が被害者ぶるのもどうかと思っているけど

万が一撮られたとしても「付き合いましょう」の言葉がない限り
友人です、とコメントを出すこともできる

分かっているけど

「ごめんな」

『謝らないでください』

「A」

『はい』

「好きだよ」

『私も好き』

ああ、浮かれてた自分が馬鹿みたいだ
彼は本当に大人で
たくさんのことを考えている

でも、、、
これなら、何も無かった方が楽だったかもなぁ