キールに沈んで (ページ4)

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スタジオに到着すると前室にはまだ誰もいなくて
スタッフさんに挨拶をして適当な位置に座る

「おはよう、橘さん」

『あ、おはようございます』

声をかけてくれたのは俳優の早乙女翼さん

180cmの長身で顔も小さくてイケメンで
最近ぐんぐんと人気をつけている俳優さん

最近は何かと共演する機会が多く
少しずつだけど仲良になれてきたと思う

「もうすぐバレンタインだねー」
とあたりさわりのない話題

「橘さん俺にチョコちょうだいよ」

『へ？』

「俺食べてみたい、橘さんのチョコ」

まさか早乙女さんにそんな事言われるなんて思ってなかった

『お渡しするのは構いませんが、大したものじゃないですよ』

「うん、それでも嬉しいよ」

『大量生産のクッキーですけど大丈夫ですか？』

「うーん。まあ、今回はそれで大丈夫」

そう言って微笑む早乙女さんに
ちょっとだけ胸騒ぎがした

収録はほぼ定刻通りに終わり
みんなそれぞれ楽屋へ戻り始める

雑誌のアンケート答えなきゃだったな
なんて考えながらボーっと歩いていると
急に腕をつかまれる

「足元。危ないから気を付けてね」

『あ、あぁ、すみません。
ありがとうございます』

そんなに危なくないだろと内心思ったが
優しさはいただいておく

そのまま早乙女さんと並んで廊下を歩く

エスコートされながら歩くのは
なんだかあの人を思い出して胸がキュッとなる

早乙女さんの楽屋の方が近かったらしく
彼の楽屋の前で別れる

『ではまた。』

「うん、またね。
バレンタイン楽しみにしてる」

最後にそう言うと私の頭を撫でる彼に
良い意味でも悪い意味でも心臓がもたない

イケメン苦手になったか？

その時前方に、見知った男性にしては少し小さめの後ろ姿発見して
逃げるようにその背中を追う

「うわ！びっくりした！」

半ば体当たりをする形で近付くと
少しよろけながらも私を支えてくれる

「どったの、橘ちゃん」

北山さんだって、ジャニーズだしイケメンなはずなんだけど
何故だろう

『安心感が違うわー』

「あ？」