キールに沈んで (ページ16)

今日:4 hit、昨日:3 hit、合計:12,848 hit

16 ページ16

それからは変わらぬ日々を過ごしつつ
北山さんとは会うことは無い

『おはよー』

「Aちゃんおはよう。
今日のスタジオに北山さん居るらしいから
後でお礼しに行くよ」

『へ？』

「へ？じゃないでしょ。
助けててもらったんだから！
本来なら直ぐにお礼に行かなきゃなのに
1週間も空いちゃったよ。
僕も行くし、パパりんも今度直々にお礼をって言ってたよ」

『………うちのお父さんの事
パパりんって呼ぶのやめてくれない…？』

父はマネージャーのことをすごく可愛がっていて
そのせいか時たまバレたら怖いような発言をする

車窓から街並みを眺めながら考えるのは北山さんのこと

そうか、北山さん居るんだ

会えて嬉しいような、
会いたくなかったような
なんだか複雑な気分

あの時はちゃんとお礼できてなかったし、
ちゃんと言わなきゃだよね、大人として

....分かってる

分かってるんだけどさ…

「Aちゃーん
いいかげんノックしてくれないかなぁー」

マネージャーが後ろから圧をかけてきてるのは分かってるけど
この扉を叩く勇気がちっとも湧かない

「Kis-My-Ft2 様」と書かれた扉の前でうなだれる私

「もう！僕がノックするからね！」

『ちょっと待って！』

「待てません！」

躊躇無く扉をノックするマネージャー

お礼を言いに来てるのだから
何を躊躇するんだって話なんだけど
こいつは北山さんとの間に起きた出来事を知らないから…

「はい」と言いながら扉を開けてくれたのは
藤ヶ谷さんで

心臓が止まるかと思った

「あれ、橘ちゃん。久しぶりだね。
どうしたの？」

『あ…。お久しぶりです…。あの…。えっと…』

彼が居る可能性が0だった訳じゃない。

ただ、すっかり忘れていたから
何の心構えもなく、彼の姿を見てしまったから

少しだけ...少し動揺しただけだ

私の大好きだった人

本当に本当に、一緒になりたかった人