キールに沈んで (ページ13)

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初めは触れるようなキスだったのに

いつの間にか深いものへと変わっていった

頭のてっぺんににあった彼の手も
後頭部に移っていて
もう逃げられない

それに応えるように彼の首に腕を回す

一瞬驚いたように顔を離すと私の顔を見てフッと笑う

「いいの？」

「ベット行こ」

そうささやかれたら、従うしかない

コクリと頷くと、彼に手を引かれて寝室へと向かう

ゆっくりと押倒されてベットへと沈んでいく

気持ち良い

素直な感想だった。

私、このまま…

そう思ったとき
リビングに置きっぱなしだった
私のスマホがけたたましく鳴り響く

思わず体が揺れたのを見て

「出ていいよ」

とふわっと微笑んだ

北山さんを寝室に残しリビングへ急ぐ

画面を見ると父からの着信
マネージャーから話がいったのだろう

『もしもし』

「おおAか？」

『そりゃそうでしょ。私のスマホにかけてるんだから』

「佐伯くんから話は聞いた。Aはどうしたい？」

父の言葉に詰まる

そうだ、うちの父は彼の俳優としての人生を潰す事だって出来てしまうんだ
一発ぶん殴りたいとは思っていたし、
お灸を据えてやろうとは思っていたけど…

『お父さんは何もしなくて良いよ。でも、向こうの事務所にはきっちり話つける。それだけで充分』

「そうか…？」

『うん。』

納得していない様子の父を宥め電話を切る

ふぅと溜息をついて体向きを変えると
扉の前にに北山さんが立っていてびっくりする

「なははっ、驚きすぎでしょ」

と笑いながら自分のスマホをチェックするとそのまま鞄へしまう

「じゃー、俺そろそろ帰るね」

『え？』

「思わず長居しちゃってごめんなー」

「クッキー美味かったわ」

とう言う北山さんに私は何も言えない

皿に残ったままだったガトーショコラとは別のものを彼に渡して玄関で見送る

「じゃねー」

と軽めの別れをしても

扉が閉するまで動けなかった