【黒尾鉄朗】これを愛と呼ぶなら。#9

【好物】 ページ24

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黒尾「お先でーす」


鞄を持って、ジャケットを羽織る。

時計の針は午後17時。


「あれ？黒尾くん今日早いねー」


帰ろうと立ち上がると、

ハゲかかった部長に声をかけられた。


仕事は終わらせてるし、文句はないはず。


仮に何か押しつけられたとしても、

いかんせん今日だけは俺も譲れない。




黒尾「______…今日結婚記念日なんすよね」





左手の薬指に光るシルバーの指輪を

見せつけるように頭を掻いた。



案の定、部長は少し顔をしかめたが、

女性社員の悲鳴にも似た羨望の声に飲み込まれた。



「いいな〜ステキ！」

「ウチの旦那も黒尾くんみたいな人だったらなー」



黒尾「ドーモ」




軽く会釈して、じゃあこれで、と切り上げて。

しつこい女性社員を振り切って会社から飛び出した。




10月20日。

今日は結婚2周年。




家の近くの花屋でバラの花束を買って、

〈黒尾〉と書かれた表札の自宅に帰る。



玄関の扉を開けると、



A「おかえりなさいっ」



エプロンをしたAが胸元に飛び込んできた。




A「お風呂にする？ご飯にする？」


どこかの漫画であるような、新婚夫婦の会話のテンプレ。

ニタニタと笑って言うAの顔に花束を押しつけて、



黒尾「風呂ー」


と言うと、ちぇ、と拗ねた顔をした。






この顔ひとつで、

今日1日の疲れが全部吹き飛んだように感じてしまう俺は、






もう、相当重症らしい。






腰を掴んで抱き寄せると、

ふわりと俺と同じシャンプーの香りが鼻をついた。





黒尾「で、飯食って、お前」





耳元でつぶやくとAの顔は、

今彼女が手に持っている赤いバラと同じくらい赤く染まって。









黒尾「______…好物は、最後にとっとく派なんで。」

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