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親方さんは大丈夫って話 ページ48

名前を呼ばれてああ、ホンモノだと思った。

ずっと探してたAだ。
ここにいる。ちゃんといる。

抱きしめた時にふわっと香ったその匂いと繋がれなかった手に俺は確信する。

そっか、としか俺は言えなかった。

そっか、お前はちゃんと幸せになれるんだな。

部屋の扉を開けてソファに座る。


「あのねマホト」


Aの呼びかけに顔を上げると彼女はまっすぐ俺を見てる。

彼女の言葉に俺はないよ、ともう一度心の中で返した。

Aが俺の隣に座る。


「でもね、マホトの気持ちには応えられないよ」

「知ってた」

「でも言わなかった」

「ん」

「だからごめんなさい」


今までずっと言わずにいた。聞かずにいた。どっちつかずでいた。そうありたかった。

Aの胸に顔を埋めて、腰に手を回す。

その手を剥がそうとする彼女に俺は少し大きな声を出す。


「最後にするから」

「うん、」


最後にするよ、こういうのはもう。

Aの鼓動の音。
鳴る度に俺に謝ってるみたいで堪らなくなった。

玄関のドアが開く音に腕が離して、最後に、とAの鎖骨のあたりに噛み付く。


「いっ、た」


顔を歪めた彼女に俺は満足する。


「9年分、それで済ませてやるんだから安いだろ」


Aは諦めたように笑う。

サグワが入ってきて、終わった?なんて酒がいっぱい入ったコンビニの袋を軽く上げる。

Aが笑っている。
俺はそれならなんだっていい。

少し飲んで、もう帰るよとAが立ち上がる。


「えー、Aちゃん帰っちゃうのー」

「うん、そろそろね」

「じゃあ親方誰か呼ぼうよ」

「駅まで送って来るから適当に呼んどけ」

「はーい」


Aと肩を並べて駅までの道を歩く。


「なあA」

「ん?」

「また来るだろ?」

「行っていいの?」

「あいつがいいなら、になるだろうけどな」

「聞いてみる」

「もしダメでもなんかあったら連絡してこいよ」

「うん」

「あともう勝手に消えないこと、せめて俺には言うこと」

「ん、わかった、ごめん」

「分かればよろしい」


じゃあね、と手を振って彼女は改札を越えた。

なあジン、それでもこの場所だけはお前には譲ってやんねえよ、なんて心の中で謎の宣戦布告をして家までの道を歩く。

親方さんは大丈夫って話。

お前がそういうなら大丈夫だよな。

お前はもう前を向いて歩き出したんだもんな。

家の扉を開けて集まり始めた面々に俺は笑う。


「今日は飲むぞ〜!」

おはよう→←ごめんね



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美月(プロフ) - 複雑な人間関係とかも丁寧に表していて、凄く楽しかったです。深く感じました。楽しかったです。ありがとうございました。 (2019年8月3日 2時) (レス) id: 44a792e69c (このIDを非表示/違反報告)
ちぇり(プロフ) - 思い出して読みたくなる素敵なお話ありがとうございます。また読みに来ます。 (2019年5月13日 23時) (レス) id: 3f39f65784 (このIDを非表示/違反報告)
なな(プロフ) - 素敵な読み物ありがとうございました…! (2018年9月10日 21時) (レス) id: 9f5b6c1252 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:うた | 作者ホームページ:http://commu.nosv.org/p/deepblue  
作成日時:2018年4月26日 1時

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