こんなに無防備なわけ ページ39
目的地に着いてすぐに店に入れば分かりやすいドレッド。
少し気まずそうな顔をする。
「潰れちゃったから連れて帰ったげて」
久しぶりに見たAは頬を染めて眠っていた。
「A」
揺するとんん、なんて唸ってまた眠る。
起きないだろうなこれは。
「なんで俺に」
「Aちゃんにとってその方がいいと思ったから」
Aを担ぎながらサグワに聞くとそんな風に返ってきた。ありがとな、って小さく言って店から出る。
「ジンくん乗ります？」
「いやいい、サグワ乗せてってやれよ」
「っす」
Aのカバンについている定期に書いてあった駅はここからそう離れてなかったし何よりふたりになりたかった。
わきをとステップと別れて歩き出す。
こんなに軽かっただろうか。
寝ているからずるずると下がっていってしまうAの体を何度か担ぎ直す。
何度目かでずずっと鼻をすする音がする。
「起きた？」
応答はない。ただ肩にだらんと下げられていた腕が首元に回る。
それから彼女は何度か俺の名前を呼んだ。
「ほんとにじんー？」
「ほんとだって」
何度も呼ぶものだから笑ってしまった。
Aも小さく笑う。あのね、とAは話し出した。
彼女の言葉にじゃあなんで、と聞き返せば、
「わたしがジンの特別でいたかっただけなんだよたぶん」
なんだ、そんなこと。
「特別だったよ、お前はずっと」
「いまは？」
「今は、またちょっと違うかな」
今は違う。この数カ月で俺は気づいてしまった。
「ちがうの？」
「それは起きたら教えてやるよ、だからまだ寝てろ」
「ここは夢のなかなのにへんなの」
Aは最後にそう言ってまた眠った。
なるほど、夢の中だと思ってたからあんなこと言ったのか。
「これがほんとに夢だったら、たまんねえな」
駅の近くでタクシーを拾う。
ちょっと借りるぞ、とまだ起きないAに声を掛けてカードケースの中から免許証を取り出して住所を告げる。
思ったよりもすぐについたその場所は今までの家よりも少し古いように感じた。
カバンから鍵を出して開ける。
酔ってる女ってこんなに無防備なわけ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 174人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
美月(プロフ) - 複雑な人間関係とかも丁寧に表していて、凄く楽しかったです。深く感じました。楽しかったです。ありがとうございました。 (2019年8月3日 2時) (
レス) id: 44a792e69c (このIDを非表示/違反報告)
ちぇり(プロフ) - 思い出して読みたくなる素敵なお話ありがとうございます。また読みに来ます。 (2019年5月13日 23時) (レス) id: 3f39f65784 (このIDを非表示/違反報告)
なな(プロフ) - 素敵な読み物ありがとうございました…！ (2018年9月10日 21時) (レス) id: 9f5b6c1252 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：うた | 作者ホームページ：http://commu.nosv.org/p/deepblue
作成日時：2018年4月26日 1時
