（緑）愛しい存在 ページ8
〇 アイドルと一般人
〜〜〜
毎週土曜と日曜を跨いで放送される、俺たちの冠ラジオ番組。今日は久しぶりの出演回だった。
「……ただいま〜」
控えめに声をかけてみるも、返事は無い。奥の部屋の電気が点いていたからもしかして、と思ったが、やはりもう眠ってしまっているのだろう。
しっぽを振りながらも無駄に吠えたりせず、静かに足元に寄ってきたお利口さんの小さな頭を撫でてやりつつ、なるべく音を立てないよう、奥へと進む。
「……A？」
そこには案の定、力尽きた彼女の姿。
きっと俺の帰宅を待っててくれようとしたのだろう。ソファーに小さく丸まって眠るその姿を見たら、何とも言えないやわらかい気持ちになった。
「…A、体痛くなっちゃうよ」
傍らに置かれた携帯からは、未だにまあまあな音量で話し声が流れてきているけれど、うるさくないんだろうか。声をかけてもさっぱり起きる気配が無い。
俺が眠る彼女の足元に腰掛けると、シェリーも着いてきて、彼女のそばに寄って体を横たえる。きっとこうやって、ふたりで俺を待っていてくれたんだろうと思うと、愛おしさで胸がいっぱいになった。
『……、ん』
「…A？」
『、あれ、…』
しばらくしてようやく身動ぎ、目を擦りながら起き上がった彼女は、隣にいる俺の姿を見つけると。
『…ふふ、…しんたろ、おかえり』
あんまりにも可愛い顔で笑うものだから、堪らなくなって、彼女の驚く声も無視して、抱き寄せる。
『…寝ててごめんね？』
「んーん、こっちこそ起こしてごめん」
『ラジオは聴いてたんだよ、ちゃんと』
「いいよ別に、聴いてなくても」
『やだ、おもしろいんだもん』
深夜に結構な熱量で話をしていると、時々その熱を自分でも落ち着けられないで、帰ってベッドに入ってもなかなか寝付けない、なんてこともあって。
でも、眠たいからかいつもより何倍増しで緩くなる彼女の話し声を、温かい体温を、隣で感じていると、いつでも自然と落ち着いて眠ることが出来た。
「…眠そう」
『ん、ねむい』
「ここで寝ちゃだめだよ、ベッド行こ」
『…んん』
「…しょうがないなぁ」
立ち上がろうとしない彼女をそっと抱き上げ、寝室へ向かう。その体をベッドに横たえ、俺も隣に並ぶと、自然な流れで擦り寄ってくる彼女。
大好きな匂いに包まれながら、心地良い眠りに落ちていくこの瞬間は、何にも代えがたい幸せだった。
〜〜〜
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作者名：春野菜
| 作成日時：2020年9月13日 18時
