What color do you like? (ページ5)

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『あ、』

「…あ」

『…こんにちは、？』

「…どうも」

けれど、まさか、降って湧いた千載一遇のチャンス。

彼女の方から俺に気づいて会釈をしてくれた。何か話さないと、と思いつつ、やっぱり言葉は出てこない。

そのまま去ろうとする彼女。またとない機会をみすみす逃そうとしている。それでも自分ではどうしようもなくて、思わずため息をつきながら下を向く、と。

「…うっ、わ！」

『え、』

何の巡り合わせか、きっと邪魔な場所に突っ立っていたせいだろう。誰かが俺の背中にぶつかって、不意打ちでバランスを崩した俺は、そのまま彼女の方へつんのめって、あろうことか彼女の腕を掴んでしまった。

『…大丈夫ですか？』

これってもしかして、神の思し召し、だったりして。

「…あの、」

『、はい？』

「……今日も本、取りましょうか」

神だ何だとファンタジーチックな、馬鹿みたいなことを考えていたせいで、勢いのままに馬鹿みたいなことを口走ってしまう。案の定、驚いた顔で固まる彼女。

……いや、これは引かれた、確実に引かれた。

『…、えっと』

言ってしまってから慌てたところで後の祭り。それはもう、死刑宣告を待つような気分だった、けれど。

『…じゃあ、お願い、しようかな』

「え？」

『え？』

「いや、お願いされると思わなくて…」

『…しない方が良かったですか？』

「いや、違う、全然、してください」

まさかの成功。慌てる俺の様子がおかしいのか、彼女はまたあの、花が咲いたような笑顔を見せてくれて。

ぎゅう、と心臓が掴まれたような気分になりながら、もしかしたらいるかもしれない神様に、馬鹿にしてごめん、と形ばかりの謝罪をしておいた。

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