What color do you like? (ページ4)

今日:3 hit、昨日:17 hit、合計:82,009 hit

（黒）背中越しのチャンスページ4

〇一般人

～～～

図書館に通う目的は、豊富な蔵書と、静かな環境。

でも、ある日。歳は見たところ俺と同じくらい。棚の上の方にある本を取ろうと、めいっぱい手を伸ばす、背の低い女性の姿がふと目について。

「……取りましょうか」

手を貸そうと思ったのは、単なる気まぐれ。

『…、いいんですか？』

自分から知らない人に話しかけるなんて、人見知りを拗らせている俺にとっては本当に珍しいこと。

彼女が指し示した本を引き出し、顔すら見れないまま黙って渡すのが、今の俺の精いっぱいだった。

『ありがとうございます』

でも、その柔らかく優しそうな彼女の声に、ふと興味が湧いて。何の気なしに顔を上げると。

『すみません、助かりました』

その可愛らしい笑顔に、心を奪われてしまった。

『……あの、大丈夫ですか？』

「…え、あ、すみません」

『いえ、こちらこそ』

じゃあ、と言って去っていってしまう彼女。こういう場合のコミュニュケーションの取り方なんて分からないから、俺は、何も声をかけられないまま、その後ろ姿をぼんやり眺めることしか出来なかった。

そして、それからというもの、俺は図書館に来る度、無意識のうちに彼女を探してしまうようになった。

( ……今日もいない、か )

繰り返すようだが俺が図書館に求めるものは、豊富な蔵書と、静かな環境。それはもちろん変わらない。けれど気づけば、もうひとつ、増えてしまっていた。

もう一度だけでも、彼女に会いたい。

日頃の行いはそんなに悪くないはずなんだけど、どうかな神様。なんて、人は都合の良い時にだけ神に縋ってみたくなるもので、別段期待はしていなかった。

～～～