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「じゃあ、樹には話したんだ、悩み事」
『……うん、なんか、なりゆきで』
「そっか…」
『あ、でも、あのね、北斗くんが頼りないとか
そういうことじゃなくって、…なんていうか、』
急に慌て出した私がおかしかったのか、北斗くんはちょっと笑って、そんなの気にしてないから、と言ってくれる。フォローはあまりに下手だったけど、どうにか場が和んでほっとした。
「…今度、俺とも遊んでね」
『え、……』
「……いやその反応の方が傷つくんだけど」
『っふふ、…うん、そうだね、また遊ぼう』
チャイムが鳴ったのを聞き届けてから図書室の戸締りをして、鍵を渡せば、ようやく仕事が終了。
しおりを貰ったあの日以来、当番終わりは駅まで北斗くんと、というのが恒例になっているから、並んで歩くのももう慣れたものだった。
「そろそろ遠足だね」
『うん、…面白いよね？』
「…え、なに？何が面白いの？」
『高校生にもなって遠足、と思って…』
「ああ、それはね、思うよね」
『…でもそれ以外言い様がないね、』
「遊びに行くだけで、校外学習ではないからね」
探り探りで繰り広げられる、当たり障りのない会話。
お互いに気を遣ってはいるけど、だからこそ生まれる付かず離れずの絶妙な距離感は、私にとってすごく居心地のいいものだった。
私が男の子とこんな風に話す日が来るなんて、今までは想像すら出来なかったな、と改めて思う。
そこから、ましてや男の子の家に行くなんて…とうっかり思考が昨日のことに戻りつつあったのは、無理やり話を繋げてかき消した。
「…あのさ、お節介かもだけど、１つだけいい？」
駅に着いて、また明日、とホームに降りようとした時。北斗くんは、真剣な様子で私を呼び止めた。
「慎太郎も陽菜も、Aちゃんのこと
そう簡単に見放したりしないと思うよ」
『…、うん』
「Aちゃんが１番よく知ってるはず、だよね？」
もしかしたら、北斗くんは実は、私が悩んでいることのほんの端の方だけ勘づいていて、この言葉をずっと伝えようとしてくれていたのかもしれない。
それを聞いて、鉛のように重たかった心が急に楽になった気がした。なんとか絞り出した、ありがとう、の声は、上手く出せなかった。
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作者名：春野菜
| 作成日時：2020年7月23日 20時
