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呼び止められて手渡されたのは、貸していた本と、薄くて小さな紙の袋。ぱっと顔を上げると、北斗くんはすぐに目をそらしてしまった。
『これ…』
「大したものじゃないけど、本のお礼」
『そんな…貰えないよ』
「Aちゃんが貰ってくれないと、
このまま捨てることになるんだけど?」
『それは、…ずるい』
「うん、ごめん」
『ううん、こちらこそ、…ごめんね気を使わせて』
「…そんなんじゃないよ、俺が勝手に、
Aちゃんにあげたいと思って買っただけ」
『…ありがとう、北斗くん』
開けてもいい?と断って中身を見ると、それはプラスチック製の、かすみ草の押し花を模したしおりだった。素直に思ったまま、かわいい、と言えば、北斗くんは大きく息を吐いて、よかった、と笑う。
「すげえ緊張した、手汗すごいよ」
『ええ…、北斗くん慣れてそう?なのに』
「…慣れてないよ、こんなこと」
ようやく歩き出すと、今度は北斗くんが私の歩幅に合わせてくれているらしくて、慌てないし、転けたりもしない。それから駅で別れるまでひたすら本の感想を言い合っていたから、会話が途切れることもなくて。
「じゃあ、…また月曜日」
『うん、またね』
自分で思っていたよりも会話を楽しめていたのか、家に着いて1人になってからも落ち着かなくて。携帯を取り出す時にふと目に付いたあの、返してもらった本を、もう1度読み返すことにした。
深い意味もなく、たまたま選んだだけの本が、今日の出来事だけで特別な物になった気がした。
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作者名:春野菜 | 作成日時:2020年7月23日 20時