cafe au lait (ページ26)

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本当に家まで送り届けてくれた樹くん。その様子はあまりにもいつも通りだったから、さっきの出来事は私が見た幻か何かだったのかとさえ思えてしまう。

…もちろん、そんなはずはないけれど。そのくらい、私の人生では起こり得なかったことだった。樹くんは、ああいうの、慣れているのかな。

家に帰ってからもそんな風に考え事ばかりしてしまって、その日は上手く眠れなかった。

「A、昨日は大丈夫だった？」

次の日は案の定、寝不足で。陽菜ちゃんは私の様子を見て何かおかしいと思ったらしく、昨日の出来事を心配そうに聞いてくる。

何時まで一緒だったのかとか、どこに行ったのかとか、本当は何も隠すつもりはなかったんだけど、なんとなく、全てを言うことは出来なかった。

だって、朝になって冷静になって考えたら、色々ととんでもないことをやらかしてしまっていたから。

『…カフェに行っただけで、すぐに帰ったよ？』

「…そっか、ごめんねいろいろ聞いちゃって」

『ううん、全然』

「元気ない風に見えたから、心配で」

何も無くて安心した、と笑う陽菜ちゃんの顔を見て、心底ほっとするのと同時に、胸が痛かった。

昨日から嘘ばかりついてしまっている気がする。大した嘘じゃないにしても、どうしても後ろめたさが拭い切れなくて、誤魔化すために積み重ねれば積み重ねるほど、どんどん苦しくなってくる。

「Aちゃんおはよ、眠そうだね」

樹くんがまず私に声をかけて、軽く短い会話をして。席に着いたら日によって、そのまま私に話を振ってくれたり、誰か別の人と話をしたり。それがいつもの大まかな流れだった。

今日もまた例に漏れず、樹くんは、昨日のことなんて無かったみたいに、全くいつも通りだった。

『…、おはよう、ちょっと、寝不足で』

うっかりそう言ってしまって少し後悔したけれど、樹くんは相槌以上のことは口にせず、前の席の男の子に話しかけていて、私のことを気にする様子はない。

身構えた自分がばかみたい、と思いながらようやく本を開くけれど、あまり集中出来る気がしなかった。

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