壱話 ページ3
「失礼致します。おはようございます。父上。お身体はどうでしょうか。」
そう言って襖を開けて父上のお部屋に朝食を持っていくのが毎朝の日課だ。
父上は布団から起き上がって読書をなさっていた。
「ありがとう。今日は少し暖かい日だね。」
「そうですね。今日は日向ぼっこでもなさってはどうでしょう。」
そう言いながら私は朝食と一緒に持ってきた温かい焙じ茶を注ぐ。
朝食を召し上がっている父上とお話しをするのはとても好きだ。
私の作った煮物や味噌汁をいつも美味しいと言ってくださる。
「そうだ。A、その木箱を開けてみなさい。」
そう仰って湯呑みに口をつけられた。
「こちらですか?」
私は横にある黒の漆塗りの箪笥の上に置いてあった箱を手に取った。
「1度もあげたことが無かったと思ってね。気に入ってくれるか分からないけれども。」
そうっと木箱を開けると綺麗な薄紅の簪が入っていた。
桜の花びらの形をした水晶が障子から入ってきた朝日に照らされてきらきらと光っていた。
綺麗。
誰かから物を貰うことなんて、恋仲である煉獄さんと以外からはほとんどなかったからとても嬉しかった。それがましてや父上からなんて。今度外に行く時に刺してみよう。
「ありがとうございます。大切に致します。」
そう言って私は父上が召し上がられた朝食を下げ、部屋を後にした。
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作者名:月希 | 作成日時:2019年10月28日 16時