７９話 ページ35
菜々花said
「はーー暑･･････。」
「ねー。溶けるーー。」
無事衣装を買い終えた私たちは、服がパンパンに詰まった袋を抱えながら炎天下の中を歩いていた。
「･･････。」
ふと、隣を気だるげに歩く桜哉くんに視線を向ける。夏の日差しのせいか、普段より世界が鮮やかな気がした。
初めて見る桜哉くんの私服はいかにも”お母さんが買ってきてくれました”という感じの黒いTシャツ。
よくわからないアルファベットのロゴが入ったそれは、とてもじゃないけどオシャレとは言えない。
それでも私は、その袖から覗く腕や胸元も含めて世界一かっこいいと思ってしまうんだけどね。
・
「桜哉くん、今日はついてきてくれてありがとね！」
「いいよ。どうせ暇だったし。」
もうすぐ、別れるところに着いてしまう。夢みたいな擬似デートもこれでおしまいだ。
明日からは、また制服での、体操服での2人に戻る。
「じゃ、ほんと今日はありがと。」
「うん。」
「明日の部活に、その袋2つ持ってきてね。」
「わかった。」
「忘れないでよ。絶対。」
「はいはい。」
「じゃあ、またね。」
手を振って、桜哉くんに背を向け、歩き出した。
──せっかくだったんだし、それらしい口実作ってツーショットくらい撮れば良かったな。
あ、でも桜哉くん前に写真に写るのあんまり好きじゃないって言ってたっけ。
「──楯野！」
「え？」
少し歩いたところで突然名前を呼ばれ、驚いて振り返る。桜哉くんは別れた場所から1歩も動いていなかった。
「その･･････良かったら、もうちょっと、延長とか･･････あり？」
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作者名：鈴蘭姫 x他1人 | 作成日時：2017年3月19日 10時
