５０．雨は止んで雲が覆う ページ25
ひと段落したところで一旦休憩をすることになり、縁側でお茶を飲みつつ一息つく。
目の前に広がるのは手入れが行き届いた美しい庭だ。
「それにしても、焼け野原のような惨状がここまで回復するとはな」
「まだ見てくれだけですけどね」
ふいに、隣に座っていた鶯丸さんに話しかけられる。
まさか彼から話を振ってくるとは思わなかったので、驚きながらも返事をした。
「取り繕えるようになっただけでも十分だ。どうせ時間は余るほどある。少しずつ進めていけば良い」
確かに、本丸全体はまだ荒れ果てているものの、来た当初に比べると幾分か呼吸はし易くなった。
気分的なものであろうが、刀剣男士たちも同様に思ってくれているのなら幸いだ。
ここから先も、私一人の力では成し遂げることなどできない。
お飾りの審神者として就任したが、受け入れてくれた薬研くんたちの気持ちを裏切るような真似はしたくなかった。
「あっ！さにわさま！」
その時、パタパタと軽快な足音を立ててやってきたのは今剣くんだった。
彼は私の前まで駆け寄ってきて、にこりと笑みを見せる。
「燭台切さんといっしょに、かしをつくりました。さにわさまもたべませんか？」
「良いんですか？」
「いっしょにたべたほうがおいしい……そうでしょう？」
同意を求めるように首を傾げられ、私は是を示す。
断る理由もないので、私はありがたくお菓子を受け取った。
御萩と似ているが全体が緑の和菓子だ。
初めて見る食べ物だったが、実際に口に運ぶとあんこよりも優しい甘みが舌に伝わる。
今剣くん曰く、ずんだ餅と呼ぶそうだ。
「ところで、この本丸にいる皆はどんな感じですか？友好的な方は他にいますか？」
何気なく質問を投げかけると、今剣は目を伏せて俯いてしまった。
「……みんな、こころやさしいです。しかし、いまこのばにいないかたなは、ひとへのけんおがまさっています。しばらくは、むずかしいでしょう」
「そう、ですよね……分かりました。私もなるべく本殿には近づきすぎないよう気を付けます。お世話になる間できることはなんでもやりますから！ じゃんじゃん言ってください！」
「……ありがとうございます。あなたがあたらしいさにわで、ほんとうによかった」
ぎゅっと手を握られ、真っ直ぐに見つめられて感謝される。
なんだかくすぐったくて、私は視線を鶯丸さんの方へとうつす。
私と今剣さんの様子を見てか、彼もまたどこか嬉しげに微笑んでいた。
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作者名：センカ | 作者ホームページ：livedoor.blogcms.jp/lite/blog/cenma524/
作成日時：2020年5月30日 15時
