４８．少しだけ近づいた距離 ページ23
「……」
「……」
お互い見つめ合ったまま言葉を発することができない。
少年の方も私が突然現れたことに驚いたのか慌てて身体を起こしたが、そのあとは口をパクパクとさせるだけで逃げることも寄ってくることもなかった。
数十秒間の沈黙が続いて、最初に動いたのは私の方だ。
静止する山姥切さんの手を止めて、ゆっくりと彼の方へ歩いていく。
「……!!」
「待って！」
流石は刀剣男士と言うべきか、素早く立ち上がった少年はその場から離れようとしたが、その前に私が彼に追いついて咄嗟に腕を掴む。
ビクッと肩を上下させて振り返った彼は、恐々とした瞳で私を見つめた。
彼の力ならば強引に私の手を振り払うことに出来たろうに、しなかった、というか無理だったのだろう。
私を通して見ている誰かに怯えているようで、私が彼の腕を離した後もその場に縛り付けられたみたいに動けずにいた。
「あっ……」
「ごめんね、急に呼び止めちゃって……」
「いや、別に……」
少しだけ距離を離れて彼は言葉を返した。
見た目は高校生くらいで綺麗な黒髪を後ろで一括りにまとめている。
視線を逸らされているため真正面から観察することはできないが、それでも端正な顔立ちをしていることは伝わった。
口を開こうとして、ぎゅっとつぐむ、といった動作を何度か繰り返す。
何か言いたげであることは分かったが、実際に声で示すことはない。
一定の距離を保ちつつも、今すぐこの場から離れていく様子でもなかったので、試しに私は彼へ話しかけてみる。
「あの、今から皆で本丸の掃除をしようって話になったのですが、もし良ければ一緒に来ませんか？……あっ、重労働をやらせるとかそういったのじゃなくって、触れないでほしい場所とかそういったところがあれば教えてほしいなって……」
「……別に、それくらいのことなら手伝うけど。他にすることもないし」
意外にも、少年はあっさりと了承してくれた。
「……人手って、まだ足りない？」
「うーん、どうでしょう……まだこの本丸の構造もちゃんと把握できていないので……今のところ、燭台切さんと鶯丸さん、そして短刀や脇差の皆さんが何名か手伝ってくださるそうで……」
「……そう。奥の方に他の刀がいるけど、人数足りているならわざわざ声をかけにいく必要はないと思う。みんな機嫌悪そうだし」
それだけ言うと、彼は鶯丸さんの元へ近づいていった。
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作者名：センカ | 作者ホームページ：livedoor.blogcms.jp/lite/blog/cenma524/
作成日時：2020年5月30日 15時
